



2021年のG20で並ぶマリオ・ドラギ首相(左)とセルジョ・マッタレッラ大統領(右)の写真
ローマでのG20関連行事で、国家元首と政府首班が並ぶ場面
出典:『Sergio Mattarella and Mario Draghi welcomed leaders to the G20 Rome Summit』-Photo by Presidenza della Repubblica/Wikimedia Commons Attribution only
大統領がテレビで演説する場面や、首相が議会で熱弁をふるう姿。
イタリアのニュースを見ていると、どちらも国のトップに見えてきます。
式典で先頭に立つ大統領、政治の最前線に立つ首相──結局どっちが上なの?と、つい考えてしまいますよね?
実はここが大きなポイントで、イタリアでは大統領と首相は「偉さ」で比べる関係ではありません。 役割がまったく違う二つのトップが並び立つ仕組みなんです。
本節ではこの「イタリアにおける大統領と首相の違い」というテーマを、大統領の立場・首相の役割・古代ローマから続く考え方──という3つの視点に分けて、ざっくり楽しく紐解いていきたいと思います!
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大統領紋章が配されたイタリア大統領旗
青地の中央にイタリア共和国の紋章が置かれた標章。
大統領の公的権威を示すシンボルとして用いられる。
出典:『Flag of the President of Italy』-Photo by Flanker/Wikimedia Commons Public domain
まずはイタリアの大統領から。
正式には共和国大統領と呼ばれ、国を象徴する立場にあります。
大統領は国民の直接選挙ではなく、国会議員と州代表による選挙で選ばれます。
任期は7年と長く、これは短期的な政争から距離を置くため。
その分、日々の政治バトルには深く入り込みません。
大統領の重要な役目は、政治がスムーズに動くよう見守ること。
首相の任命、法律の公布、議会解散の承認など、要所要所で登場します。
特に力を発揮するのが、政党同士が対立して内閣が作れないとき。 誰を首相に指名すれば国が安定するかを考え、調整役として動くのが大統領です。
大統領は強い権限を持ちながら、あえて前に出ません。
それは「政治を動かす主役」ではなく、「土台を支える役」だから。
この距離感があることで、イタリアの政治は急激に傾きにくくなっています。
静かだけれど、いないと困る存在──それが大統領なんですね。

閣僚評議会議長旗
青地の中央に共和国紋章を配した旗。
イタリアの首相(閣僚評議会議長)の公的標章として掲げられる。
出典:『Flag of the Prime Minister of Italy』-Photo by Flanker/Wikimedia Commons CC BY-SA 3.0
次に首相です。
イタリアでは閣僚評議会議長と呼ばれ、政府のトップとして実務を担います。
法律案を出し、政策を決め、国会で説明する。
テレビでよく見る「政治の顔」は、ほとんどが首相です。
首相は国会の多数派によって支えられています。
つまり、国会の信任を失えば、すぐに退陣する可能性がある立場。
その分、政治の現場で最も責任が重い役職でもあります。
景気、外交、社会制度──うまくいかなければ、批判を一身に受けるのが首相です。
首相は国を動かす力を持つ一方で、地位は決して安泰ではありません。
イタリアでは内閣が頻繁に交代してきた歴史もあり、首相の椅子は常に揺れています。
だからこそ、首相はスピード感を持って動きます。
「今できること」を積み重ねていく役割なんです。

追放宣誓を行う執政官ブルトゥスとコッラティヌスの版画
古代ローマ共和政の頂点を「二人」で担い、権力分散を図った執政官制を象徴する場面。
現代イタリアに通づる、並立と相互牽制で、独走や専制化を抑える発想があった。
出典:『De eerste consuls zweren de Tarquinii voor eeuwig uit Rome te verbannen』-Photo by Rijksmuseum/Wikimedia Commons CC0
現代イタリア政治に見られる、大統領と首相が並び立つ二重構造。
実はこれ、ちょっと不思議に見えて、歴史をたどると「ああ、なるほど」と腑に落ちる仕組みなんです。
そのヒントになるのが、ずばり古代ローマ。
古代ローマ共和国では、権力を一人に集中させないことが何よりも大切にされていました。
執政官、元老院、民会──それぞれが役割を分担し、互いにブレーキをかけ合う構造。
強力なリーダーが生まれることそのものを、ローマ人は本能的に警戒していたわけです。
ローマ人にとって、「強すぎる権力」は危険そのもの。
だからこそ、決定する立場と、見張る立場をあえて分けるという発想が育っていきました。
任せきりにしない。必ず誰かがチェックする。
この慎重さこそ、ローマ政治の大きな特徴だったんですね。
そしてこの考え方、実は現代イタリアにもちゃんと残っています。
役割を分けることで、どちらかが暴走しないよう、自然とバランスが取られる仕組みになっています。
ここまで見てくると、答えはだいぶ見えてきます。
大統領と首相は、上下関係で優劣をつける存在ではありません。
前に立って政治を動かす首相。
少し距離を取り、全体の流れを見守る大統領。
役割は違えど、どちらも欠かせない存在です。
どちらか一方だけでは、政治はどうしても偏ってしまう。
だからこそ、あえて分ける。任せきりにしない。
古代ローマから続く「分けて守る」という発想が、姿を変えながら、今のイタリア政治にも静かに息づいているのです。
イタリアの大統領と首相は、上下関係で比べる存在ではありません。
大統領は国家全体を見守る安定装置であり、首相は政治を実際に動かす実務の責任者。
役割を分けることで国を支えるという考え方は、古代ローマから続くイタリアらしい伝統です。
「どっちが偉い?」と感じたら、「何を担当しているか」を見る。
そう考えると、この二人の関係がぐっと分かりやすくなりますよ。
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