ブルガリアの民族衣装の特徴

ブルガリアの民族衣装

「ブルガリアの民族衣装」は農耕文化とバルカン諸民族の交流から生まれた多彩な色使いが特徴である。特に「幾何学模様の刺繍」には豊穣や家族の繁栄を願う意味が込められている。本ページでは、このあたりの民族的背景とブルガリア文化との関連について詳しく掘り下げていく。

ブルガリアの民族衣装の特徴

ブルガリアの民族衣装は、豊かな色彩と細やかな刺繍が印象的で、国の自然や歴史、信仰がぎゅっと詰まった文化的シンボルです。国土は山岳地帯から平原、黒海沿岸まで広がり、地域ごとに気候や生活様式が異なるため、衣装の形や色づかいにも多様なバリエーションがあります。男女ともに白いシャツを基本に、鮮やかな刺繍入りの上着やエプロン、腰帯などを組み合わせるのが特徴で、刺繍の模様や色には魔除けや豊穣祈願といった意味が込められています。今回は女性用・男性用、そしてその歴史に分けて詳しく見ていきましょう。



ブルガリア女性の民族衣装

女性の民族衣装は、白い長袖シャツ「リツァ」や「カミザ」をベースに、ウールやコットンのスカートとエプロンを重ねます。地域によっては袖や胸元、裾に色鮮やかな刺繍を施し、花や幾何学模様が華やかさを添えます。特に黒海沿岸や南部では赤を基調とした色使いが多く、山岳地帯では深緑や黒といった落ち着いた色合いが好まれます。


素材と色づかい

コットンやリネンを夏用に、ウールを冬用に使い分けます。赤は生命力、緑は自然と豊穣、黒は大地と祖先への敬意を表すなど、色には象徴的な意味があります。特に婚礼衣装では、赤と白を組み合わせることで「幸せ」と「純潔」を表現します。


装飾と小物

前掛け状のエプロン「プレストリャカ」には手織りの模様や刺繍が入り、腰帯「パヤス」は装飾性が高く、銀製のバックルで留められることもあります。頭飾りには花冠やコイン飾りを付け、地域や年齢、婚姻状況によってデザインが変わります。


ブルガリアの女性民族衣装(国立民族学博物館の展示)

ブルガリアの女性民族衣装
ソフィアの国立民族学博物館に展示された衣装。頭飾りや刺繡の意匠が地方ごとに異なり、ピリン地方の様式が見られる

出典: Photo by Vassia Atanassova - Spiritia / Wikimedia Creative Commons Attribution-Share Alike 3.0 Unported, 2.5 Generic, 2.0 Generic and 1.0 Generic licenseより


ブルガリア男性の民族衣装

男性の民族衣装は、白いシャツ「カミザ」にウールのズボンを合わせ、刺繍入りのベストやジャケットを羽織ります。ズボンは地域によって形が異なり、広がった「シャルバリ」型や細身の「ポトゥリ」型などがあります。農作業にも耐えられる動きやすさと、防寒性を兼ね備えています。


ジャケットとズボン

ベストやジャケットには赤や黒の刺繍が入り、模様は家族や地域を示す印でもあります。ズボンは厚手のウールで作られ、冬場の厳しい寒さにも耐えられる仕様です。


帽子と小物

フェルト製の丸い帽子「カロタ」や毛皮帽が用いられます。腰には幅広のベルトを締め、小道具や袋を下げることもあり、実用性の高い作りです。


ブルガリア民族衣装の歴史

ブルガリアの民族衣装は、古代トラキア時代からの服飾文化を基礎に、スラブ系文化やオスマン帝国支配の影響を受けながら発展しました。中世には地域ごとに独自の衣装様式が確立し、刺繍は単なる装飾ではなく魔除けや祈願の意味を持つ民俗的な要素として定着します。


地域ごとの違い

ドブルジャ地方は幾何学模様、ロドピ山地は動植物モチーフなど、地域ごとに刺繍のテーマや色使いが異なります。これは地理的条件や隣国との交流の影響を反映しています。


現代での位置づけ

現在では結婚式や民俗舞踊、国民の祝日に着用されるほか、観光イベントやフェスティバルでも披露されます。職人による手刺繍は今も受け継がれ、ブルガリア文化の象徴として高く評価されています。


このように、ブルガリアの民族衣装は、色や刺繍に込められた意味と地域性の豊かさが魅力の、歴史的かつ文化的な宝物なのです。