
オーストリアといえば、アルプスの山々や美しい音楽だけでなく、伝統的な民族衣装も有名です。中でも女性用のディアンドル(Dirndl)は、観光ポスターやお祭りの写真で一度は目にしたことがあるはず。もともとは農村の作業着だったこの服が、今ではオーストリアの文化を象徴する華やかな衣装に進化しました。一方、男性用のレーダーホーゼン(Lederhosen)も力強く実用的な魅力を放ちます。今回は女性用・男性用、それぞれの特徴と歴史をじっくり見ていきましょう。
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オーストリアの女性民族衣装「ディアンドル」
オーストリア女性の民族衣装の中で最も広く知られているのがディアンドルです。もともとは農村の女性が着ていた実用的な服でしたが、やがて都市の上流階級にも取り入れられ、現在では「オーストリアらしさ」を象徴する華やかな衣装になりました。コルセット風の上衣でウエストラインを強調し、膝丈や足首丈のスカートがふんわりと広がるシルエットは、女性らしさを際立たせます。
さらにカラフルなエプロンを合わせることで、清楚さと華やかさが同居する独特の魅力が生まれるんです。首元からのぞく白いブラウスやパフスリーブの袖も可愛らしいアクセントで、世代を超えて愛される理由のひとつとなっています。
ディアンドルは四季の変化に合わせて素材を変えるのも特徴です。夏は涼しげなコットンやリネンが使われ、軽やかで爽やかな印象に。冬はウールや厚手の生地を選び、温かさと重厚感を兼ね備えたスタイルになります。
色は赤や緑、青といった鮮やかなものが多く、チェックや花柄などの模様がよく取り入れられます。特にエプロンの結び位置には「右は既婚、左は未婚」といった意味があり、さりげなく着用者の立場を伝えるサインになっていたんです。
装飾にもこだわりがあり、胸元には銀細工の留め具やカメオ、首にはネックレスを合わせるのが定番です。花冠やスカーフを頭に巻くスタイルもあり、地域や場面によって雰囲気が変わります。
特別な行事や結婚式では、シルクやベルベットなどの高級生地を用いた豪華なディアンドルが選ばれ、繊細な手刺繍で彩られたものも登場します。普段着から晴れ着まで幅広く対応できる柔軟さこそ、ディアンドルが長く愛されてきた理由なんですよ。
オーストリアの男性民族衣装「レーダーホーゼン」
ケルンテン州の民俗舞踊グループの衣装。刺繍入りの革ズボンとベルト、ローデン帽、膝丈靴下の組み合わせが典型で、祭礼や民俗行事で着用される。
出典: Photo by Naturpuur / Wikimedia Commons CC BY 4.0より
男性の民族衣装として広く知られているのがレーダーホーゼン(革製の半ズボン)です。頑丈な革で作られたこのズボンは、もともと山や森での作業や狩猟に用いられていました。
膝丈または膝下丈が一般的で、吊り紐(サスペンダー)には美しい刺繍が施されることが多く、実用性と装飾性を両立しています。野外活動に耐える丈夫さを持ちながらも、見た目の華やかさも忘れないのが特徴なんです。
レーダーホーゼンには白いリネンシャツや赤・青などのチェック柄シャツを合わせるのが定番です。その上から羽織るのがローデンと呼ばれるウールのジャケット。ジャケットには鹿角のボタンや緑色の縁取りが施され、山岳地方らしい素朴さと力強さを表しています。自然との暮らしに根ざした機能性とおしゃれ心の両方が感じられるんです。
フェルト製の帽子には羽飾りや紐飾りがつけられ、地域や場面によって意匠が変わります。祭りでは鮮やかな羽を差し、普段は落ち着いた色合いの紐飾りを選ぶなど、TPOに合わせて楽しめるのも魅力です。
靴は厚手の革で仕立てられたものが基本で、登山や農作業にもしっかり耐えられる実用性を持っています。長い靴下を合わせて履くことで、寒冷な山岳地帯でも快適に過ごせる工夫がされていました。シンプルだけれども、随所に地域性や暮らしの知恵が詰まっているのがレーダーホーゼンの魅力なんですよ。
チロル地方の民族衣装
インスブルック・ヴィルテンの市楽団の衣装。赤いベストや羽飾り付きの帽子、レーダーホーゼンと膝丈ソックスといった要素が組み合わさり、祭礼や行進で着用される。
出典:Photo by Naturpuur / Wikimedia Commons CC BY 4.0より
オーストリアの民族衣装は、17~18世紀の農村で日常的に着られていた作業着や礼服が原型なんです。農作業のしやすさや寒さに耐える工夫がこらされていて、当時はあくまで生活に根ざした服でした。でも19世紀になると民族主義の気運が高まり、「昔からの服こそ国民の誇り」という意識が広がります。
その流れで、こうした農村の服が「国民服」として再評価され、上流階級の間で流行したんですね。今の私たちがイメージする華やかなディアンドルやレーダーホーゼンも、この時代に「おしゃれ着」として進化した結果なんです。
チロル地方の衣装は鮮やかな刺繍や幅広のリボンが目を引き、とても華やか。対してザルツブルク周辺では深みのある緑や茶といった落ち着いた色が選ばれることが多いです。山岳地帯なら厚手のウール、湖水地方なら軽やかなリネンと、素材も地域の気候に合わせて工夫されています。
こうしたバリエーションが「その土地らしさ」を映し出していて、旅をすれば衣装だけでも地域の文化の違いを感じられるんですよ。
今ではオクトーバーフェストや観光イベント、さらには結婚式や家族のお祝いごとでも民族衣装を着る機会があります。観光客向けにはミニスカート風やカラフルなモダンアレンジも人気で、若い世代にも親しまれています。でも同時に、伝統的な職人が仕立てる一点ものの衣装や、代々受け継がれる着こなしのマナーも大切にされているんです。
つまり、遊び心と伝統の両立。日常的に着る機会は少なくなっても、オーストリア人にとって民族衣装は「特別な場を彩る誇りの服」として生き続けているんですね。
このように、オーストリアの民族衣装は、自然や地域文化と結びつきながら進化し、今も国民の誇りとして受け継がれているのです。
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