
ヨーロッパはユーラシアの西の半島にすぎぬ。
だがその海岸線の複雑さこそが、世界を変える無数の航路を生んだのだ。
─ 歴史地理学者・ハルフォード・マッキンダー(1861 - 1947)
ヨーロッパの面積って、じつは約1,000万平方キロメートルしかないんです。これ、地球上の陸地のたった2%くらい。でもその小さな空間の中で、驚くほど多様な国家や文化が育まれてきました。
古代ギリシャやローマ帝国の時代には、地中海沿岸が文化と政治の中心として大きく栄えましたし、中世になると今度は北ヨーロッパや東ヨーロッパの地域がどんどん発展していきます。王国や帝国が入り乱れて登場する、まさに群雄割拠の時代ですね。
そして近代に入ると、国境線が引かれて「国家」という概念が定着していきます。領土が拡大したり縮小したりしながら、現在のヨーロッパ地図の原型がつくられていきましたその流れに決定的な影響を与えたのが、19世紀のナショナリズムの高まりと20世紀の二つの世界大戦です。こうした出来事が、ヨーロッパの地政学を根底から揺るがすことになります。
さらに冷戦時代には、東西に分断された地図がしばらくの間定着しましたが、その後の欧州統合によって、少しずつ「国境」という概念がゆるやかになっていきました。つまり、ヨーロッパの歴史って、小さな空間のなかで繰り広げられた壮大な政治と文化の相互作用の物語だった、と言えるんです。
こんな感じでヨーロッパの歴史を振り返ると、国境の変遷はまるで“動くパズル”のよう。その背景には戦争・宗教対立・民族運動・帝国の興亡といったさまざまな要因が複雑に絡み合っています。そして、それらの変化は各地域──西欧・東欧・中欧・南欧・北欧──で異なる表情を見せてきました。
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ロシア(ヨーロッパ側) | 約3,960,000 km2(※ヨーロッパ部分のみの推計) |
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ウクライナ | 約603,700 km2 |
ポーランド | 約312,696 km2 |
ルーマニア | 約238,397 km2 |
ベラルーシ | 約207,600 km2 |
ハンガリー | 約93,030 km2 |
ブルガリア | 約110,994 km2 |
セルビア | 約88,361 km2 |
チェコ | 約78,867 km2 |
スロバキア | 約49,035 km2 |
モルドバ | 約33,846 km2 |
ボスニア・ヘルツェゴビナ | 約51,197 km2 |
クロアチア | 約56,594 km2 |
モンテネグロ | 約13,812 km2 |
アルバニア | 約28,748 km2 |
北マケドニア | 約25,713 km2 |
東欧は「ヨーロッパの火薬庫」とも呼ばれるほど、国境がめまぐるしく変わってきた地域。大国に挟まれた小国の運命が色濃く反映されています。
18世紀末、プロイセン・ロシア・オーストリアによってポーランドは三度にわたり分割され、地図上から消滅。それが第一次大戦後に復活し、さらに第二次大戦では東へ移動するなど、まさに「動く国境」を象徴する存在です。
1991年のソ連崩壊によって、バルト三国やウクライナが独立。これにより東欧では旧ソ連国境線の見直しが起き、新たな国家配置が生まれました。
フランス | 約551,695 km2(本土のみ) |
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ドイツ | 約357,022 km2 |
イギリス | 約243,610 km2(グレートブリテンおよび北アイルランド) |
アイルランド | 約70,273 km2 |
オーストリア | 約83,879 km2 |
オランダ | 約41,543 km2 |
スイス | 約41,284 km2 |
ベルギー | 約30,689 km2 |
ルクセンブルク | 約2,586 km2 |
ヨーロッパ西部では、早くから国民国家が成立し、近代以降は比較的安定した国境線が築かれていきました。
19世紀から20世紀にかけて、西欧最大の国境変動といえばアルザス=ロレーヌ地方の争奪戦。1871年の普仏戦争でドイツ帝国が獲得し、第一次大戦後にフランスが取り戻すなど、両国の間で何度も国境線が揺れました。
一方で、西欧の国境は海外にも広がっていました。ベルギー・オランダ・フランスなどは、アフリカや東南アジアに多数の植民地を持ち、その独立とともに領土の再編が生じたのです。
スペイン | 約505,992 km2 |
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イタリア | 約301,340 km2 |
ポルトガル | 約92,090 km2 |
ギリシャ | 約131,957 km2 |
クロアチア | 約56,594 km2 |
ボスニア・ヘルツェゴビナ | 約51,197 km2 |
アルバニア | 約28,748 km2 |
北マケドニア | 約25,713 km2 |
モンテネグロ | 約13,812 km2 |
マルタ | 約316 km2 |
サンマリノ | 約61 km2 |
バチカン市国 | 約0.44 km2 |
南欧は古代文明の発祥地でもありますが、近代以降は民族問題と内戦によって国境線が大きく動いてきました。
20世紀最大の国境再編のひとつが、ユーゴスラビアの崩壊。1990年代の民族紛争を経て、スロベニア・クロアチア・ボスニア・セルビア・モンテネグロ・北マケドニア・コソボといった国々が誕生。同じ地域で7つの国が生まれたという点で、分裂のダイナミズムが際立ちます。
19世紀、リソルジメントと呼ばれる統一運動を経て、イタリアは小国分立状態から統一国家へと変貌。これにともない、サルデーニャ王国やナポリ王国などの旧領域の国境も大きく変わっていきました。
ドイツ | 約357,022 km2 |
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ポーランド | 約312,696 km2 |
オーストリア | 約83,879 km2 |
チェコ | 約78,867 km2 |
ハンガリー | 約93,030 km2 |
スイス | 約41,284 km2 |
スロバキア | 約49,035 km2 |
スロベニア | 約20,271 km2 |
中欧は「帝国の記憶」が色濃く残る地域。ハプスブルク帝国の支配が終焉した後、民族ごとの国家形成が進んでいきました。
第一次大戦後、オーストリア=ハンガリー帝国が崩壊。これによってチェコスロバキア・ユーゴスラビア・ハンガリー・オーストリアといった新国家が誕生し、国境が大きく書き換えられたんです。
戦後、中欧は東西冷戦の最前線に。ドイツは東西に分断され、1989年のベルリンの壁崩壊でようやく再統一。まさに地理とイデオロギーの交錯する舞台でした。
スウェーデン | 約450,295 km2 |
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ノルウェー | 約385,207 km2(本土のみ) |
フィンランド | 約338,455 km2 |
アイスランド | 約103,000 km2 |
デンマーク | 約42,933 km2(本土のみ) |
リトアニア | 約65,300 km2 |
ラトビア | 約64,589 km2 |
エストニア | 約45,227 km2 |
比較的安定した印象のある北欧ですが、実は過去には大きな変動も経験しています。
かつてはバルト海沿岸を支配したスウェーデン帝国も、17世紀以降は徐々に領土を縮小。フィンランドは19世紀にロシア帝国に併合され、のちに独立を果たします。
1905年、ノルウェーはスウェーデンとの同君連合を解消し、平和裏に独立。これは国境変動としては珍しく非暴力的で、北欧らしい穏やかな展開だったといえるでしょう。
このようにヨーロッパの諸国の「面積」を決定づける「国境」は、常に変動してきた“動的な地図”でした。それぞれの地域が抱える歴史の傷や希望の証として、国境線(面積)はただの線ではなく、物語そのものなんですね。
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