
北欧とは、寒さの中に光を見いだし、沈黙の中に調和を育てた文明である。その強さは征服ではなく、耐えることにあった。
─ 歴史家・フィリップ・ヨハン・フォン・ストラーレンベルク(1676 - 1747)
北欧──寒くて静かなイメージを持つかもしれませんが、じつはこの地域、自然環境も歴史もかなりダイナミック。氷河が削った険しい地形や、極端な気候条件、そしてそれを乗り越えて生まれた独自の文化と社会制度。今回は、そんな北欧の“地理”を入り口に、自然と人間が織りなす壮大なストーリーをたどってみましょう。
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「北欧」と一口に言っても、どこまで含むのかじつはちょっとややこしいんです。一般的にスウェーデン・ノルウェー・デンマーク・フィンランド・アイスランドの5か国が「北欧諸国(Nordic countries)」とされ、文化や政治、経済の面でも密接な関係を持っています。
一方で「スカンディナヴィア半島」という言い方になると、スウェーデン・ノルウェー・(時にデンマーク)を指すことが多く、フィンランドやアイスランドは含まれないことも。つまり文脈によって微妙に変わるんですね。
地理的に見ると、北欧はヨーロッパの中でも特に自然環境が厳しく、しかも国ごとにその特徴が大きく異なるという面白さがあります。
まず特筆すべきはスカンディナヴィア山脈。ノルウェーとスウェーデンを分かつこの山脈は、かつての氷河によって削られたフィヨルド地形を生み出しました。ノルウェーの海岸線がギザギザなのはこのためなんです。
一方、フィンランドは湖沼地帯として知られ、国内には約18万以上の湖が点在。大地がやわらかく低いという特徴が、まるで“水の迷路”のような風景を作り上げています。
北欧の気候は大まかに分けて海洋性と大陸性の2つ。ノルウェーやデンマークのように大西洋に面する国は、北大西洋海流の影響で冬も意外と温暖ですが、フィンランドやスウェーデンの内陸部では氷点下30度を下回ることも。
また、アイスランドは火山島でありながら、意外にも温暖な気候を持ちます。これは地熱活動と暖流のおかげ。寒冷地の中にある不思議なぬくもりが特徴です。
北欧といえば森林と清流、そしてオーロラ。スウェーデンとフィンランドは国土の約70%が森林で、林業や紙産業が盛ん。またラップランド地方では、冬の長さと寒さがトナカイ牧畜やサーミ文化を育んできました。
さらに、どの国も再生可能エネルギーの活用に積極的。アイスランドでは電力のほぼ100%を地熱と水力でまかなっているなど、地理的条件が環境先進国としての基盤になっているんです。
北欧の歴史をひもとくと、その背景にはいつも「地理」があります。厳しい環境にどう立ち向かい、どんな知恵を絞って生き抜いてきたのか。そこにこそ北欧の真の姿が見えてきます。
8〜11世紀に活躍したヴァイキングたちは、ノルウェーやデンマーク、スウェーデンのフィヨルド地形に適応し、船による海上移動を得意としました。これはまさに海と山に囲まれた地形が生み出した“海の民”の文化。
その移動性の高さは、イギリス・フランス・ロシアにまで影響を及ぼし、交易や戦争を通じて各地の文化と交わることで北欧の存在感を高めていったのです。
19世紀から20世紀にかけて、北欧各国は他国からの支配を離れ、自主独立の道を歩み始めます。その際、森林資源や水力発電といった地理的資源が経済的自立を後押ししました。
特にスウェーデンでは鉱山と林業、ノルウェーでは水力と漁業が基盤となり、環境を活かした独自の産業モデルを築いていったのです。そしてこの地理の力が、やがて福祉国家としての北欧モデルへとつながっていくわけです。
このように北欧の地理は、ただの“背景”じゃありません。地形も気候も、環境も、それぞれが文化や社会の「設計図」そのものなんですね。
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