偏西風と暖流の影響から「地中海性気候のメカニズム」を理解しよう

世界の偏西風の図
地中海性気候は、夏に偏西風が高緯度へ移動して乾燥し、冬に偏西風が戻って降雨をもたらすことで形成される

出典:Photo by United States Army Service Forces / Wikimedia Commons Public domainより

 

地中海性気候といえば、「カラッと晴れた夏」と「しっとりとした冬」。そんな気候がなぜ成立するのか、不思議に思ったことはありませんか?じつはこの気候の裏側には、大気と海の力強い流れ──つまり偏西風暖流という2つの自然のしくみが深く関係しているんです。今回はそのメカニズムを、わかりやすくかみ砕いて解説していきます。

 

 

偏西風の働き

まずは空の流れ、つまり大気の動きに注目しましょう。地中海性気候の「冬の雨」には、偏西風が大きなカギを握っているんです。

 

中緯度を吹く西からの風

偏西風とは、北緯30度〜60度あたりで西から東へ吹く恒常風のこと。この風は上空だけでなく地表近くにも影響を与えていて、ヨーロッパ南部にも常に吹きつけています。冬になるとこの偏西風が低気圧や湿った空気を地中海地域に運び込むため、雨がしとしと降るようになるんですね。

 

夏になると勢力が後退

ところが夏になると、北アフリカからアゾレス高気圧と呼ばれる大きな高気圧が張り出してきて、この偏西風のルートを北へ押し上げてしまいます。結果、地中海沿岸は乾いた空気に包まれて晴れが続く──つまり、夏に雨が降らないのは偏西風が届かなくなるからなんです。

 

アゾレス高気圧の位置図
夏になるとこの「雲をできにくくする性質」の強力な高気圧帯が地中海域を覆う為に、雨が少なくなる

出典:Author Jeroen / Wikimedia Commons GNU Free Documentation License 1.2より

 

暖流のぬくもり

つぎに、海の流れ──つまり暖流の影響も無視できません。地中海性気候が「冬でもそこまで寒くない」理由は、この暖かい海流にあるのです。

 

大西洋からの北大西洋海流

ヨーロッパ西岸には北大西洋海流という暖流が流れています。これはメキシコ湾からやってくるメキシコ湾流の続きで、フランス・スペイン沿岸まで届きます。この暖流が気温を引き上げる効果を持つため、同じ緯度のアジアや北米と比べても、地中海沿岸の冬はびっくりするほど温暖なんですね。

 

蒸発で湿気も供給

さらに暖流は海水を蒸発させて空気中の水蒸気を増やす働きもあります。これが偏西風にのって内陸部まで運ばれ、雨雲の元になる。とくに冬場の降雨においては、大西洋と地中海の水分供給が重要な役割を果たしているんです。

 

大気と海が織りなすバランス

ここまでの話を通じて、「偏西風」と「暖流」が、それぞれどんな風に地中海性気候に関わっているかが見えてきました。でも本当のポイントは、この2つが“セットで働いている”ということなんです。

 

高気圧と低気圧の季節交代

夏はアゾレス高気圧によって晴れと乾燥が支配し、冬になると偏西風によって低気圧と湿気がもたらされる。この高気圧と低気圧の“季節交代制”こそが、地中海性気候の周期性を生み出しているんですね。

 

海と空がつくる気候のリズム

地中海性気候は、空(風)と海(流れ)の絶妙なリズムで成り立っています。どちらかが欠けても、今のような気候バランスにはなりません。このしくみは非常に繊細で、地球温暖化などで変調すれば気候帯の分布も変わりかねないといわれています。

 

このように、地中海性気候は「偏西風が湿気を運び、暖流が気温を保つ」という、大気と海の共同作業によって成立しているんですね。見た目は穏やかでも、裏では自然のダイナミックな力が綱引きしている──そう考えると、この気候のありがたみがちょっと違って見えてきます。