
ステップ気候帯の代表的な動物・サイガ
ロシア南部ステップ気候域に位置するStepnoi Sanctuaryで、サイガが水辺で佇む瞬間を捉えた一枚
出典:Photo by Andrey Giljov / Wikimedia Commons CC BY-SA 4.0より
ステップ気候──それは乾燥した大地と強い風、そして夏と冬の極端な寒暖差が支配する過酷な世界。そんな環境に生きる動物たちは、どうやってこの風土に適応してきたのでしょうか?ヨーロッパ東部から中央アジアにかけて広がるステップ地帯では、じつにユニークな特徴をもつ動物たちが、この土地に根ざした暮らしを送っているんです。このページでは、ステップ気候帯に生息する代表的な動物たちの紹介と、その生態的な工夫や文化的な関わりをわかりやすくかみ砕いて解説します。
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まずは、年間を通して雨が少ないステップ気候において、どうやって水分を維持しながら暮らしているのかを見ていきましょう。
中央ユーラシアのステップを代表するサイガ(別名:オオハナレイヨウ)は、短い草を食べる草食動物。特徴的なのは、前方にせり出した大きな鼻。これは砂ぼこりをろ過するフィルターのような役割を果たし、乾いた空気から水分を逃がさない工夫でもあるんです。夏と冬で行動域を変える遊牧的な移動をするのも特徴。
ステップの乾燥地帯に穴を掘って暮らすヨーロッパマーモットは、昼間の暑さを避けて地中で生活し、寒い冬は冬眠して乗り越えます。巣穴の中は湿度が保たれるため、乾燥をしのぐのにぴったりの仕組みなんですね。
次に、ステップ気候特有の「夏は暑く、冬は極寒」という極端な気温差に、どのように体が対応しているのかを探ってみましょう。
モウコノウマは、現存する唯一の野生馬とされ、寒冷なステップ地帯でも生き延びるたくましい種。毛が季節によって大きく変化し、夏は短毛、冬は厚くて長い冬毛に生え変わります。また体つきもがっしりしていて、極寒の風に対抗できる構造をしているんです。
ステップ気候帯のキツネは、冬になると密度の高い灰色の毛に変化し、体温を逃さない構造になります。暑い時期には耳を立てて熱を逃がす工夫もしていて、まさに「衣替えと冷却」を両立した省エネ型の適応動物といえます。
最後に、こうした動物たちがどのように人びとの暮らしや文化と結びついてきたのかを、ヨーロッパの歴史的文脈の中で見てみましょう。
ステップ地帯に暮らす遊牧民にとってウマは単なる移動手段ではなく、戦い・運搬・信仰の中心的存在でした。特にウクライナ草原では、古代スキタイの頃から馬具や埋葬などに馬が使われ、文化の核を成してきました。モンゴルやカザフスタンを含め、ヨーロッパ東縁部に広がる騎馬文化の起点ともいえる存在です。
冬の厳しさが長いステップ地域では、キツネやマーモットの毛皮が貴重な衣料資源とされてきました。特にロシア帝国時代には、毛皮交易が国家経済を支えるほどの重要産業となり、ヨーロッパ全体にも影響を与える一大商流が形成されたのです。
ステップ気候という極端な環境の中で、動物たちはそれぞれに驚くほど洗練された方法で生き延びてきました。その姿は、人間の生活や文化の中にも色濃く影を落としていて──とくにヨーロッパ東部では、動物と人間が一体となってこの風土を生き抜いてきたと言えるのです。
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