
南欧は太陽のもとで文明を育み、海と石のあいだに歴史を刻んできた。
そこでは記憶が風に漂い、時が遺跡の影に息づいている。
─ 地中海史研究者・フェルナン・ブローデル(1902 - 1985)
南欧──太陽がまぶしく、海とオリーブと石造りの街並みがまるで絵画のように広がるこの地域。でもその美しい風景の背景には、地中海に面した特殊な地理や、古代から続く火山地帯、そして乾燥と水不足という現実もあるんです。今回は、そんな南欧の“地理”に注目して、土地と暮らしの関係をじっくり見ていきましょう。
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「南欧」と呼ばれる国々は、ヨーロッパ大陸の南側、つまり地中海沿岸に位置しています。代表的なのはイタリア・スペイン・ポルトガル・ギリシャ、そしてマルタなどの小国や島国たち。とくに文化的にはラテン文化圏とされ、言語・宗教・建築様式なども共通点が多いのが特徴です。
ただし、山がちな内陸部と海沿いの平地では様相がガラリと異なるため、「南欧=全部温暖で陽気」というイメージはちょっと雑かもしれません。
海・山・火山──南欧の自然環境はとにかく変化に富んでいます。いったいどんな地形や気候が広がっているのか、さっそく見ていきましょう。
南欧の地形のキーワードは半島と山脈。イタリア半島・イベリア半島・バルカン半島の三大半島が地中海に突き出し、各地に山がちの地形をもたらしています。
たとえばアペニン山脈はイタリアの背骨のように縦断し、ピレネー山脈はスペインとフランスの自然の国境。また、エーゲ海の島々は隆起と沈降を繰り返す地形で、島ごとに風景も文化もガラリと変わるのが面白いところ。
南欧の気候は典型的な地中海性気候。夏は高温で乾燥し、冬は比較的温暖で雨が多いというスタイル。この「夏に雨が降らない」という特性は、農業や生活用水の確保にとってはけっこう大きな課題です。
さらに、スペイン南部やギリシャなどでは、40度を超える熱波が毎年のように問題になります。地中海の穏やかさとは裏腹に、気候的にはかなり厳しい一面もあるのです。
この地域は地中海の生態系を育む重要な場所でもあります。乾燥に強いオリーブ・ブドウ・コルクガシといった植生が広がり、テラス式農業によって傾斜地も無駄なく使われています。
火山も忘れてはいけません。エトナ火山・ヴェスヴィオ火山など、イタリアには活火山がいくつも存在し、肥沃な土壌を生む一方で、噴火のリスクと共存してきた歴史もあるんです。
自然の条件は、そのまま人間の営みを形づくってきました。南欧の歴史は、まさに「地理を味方につけた」文明の歩みだったんです。
古代ギリシャやローマは、地中海を中心とする航路を使って広域交易ネットワークを築きました。港が多く、風の流れや潮流が読みやすいという地理的条件が、こうした海洋文化の発展を後押ししたわけです。
それぞれの都市国家や帝国が、山に守られ、海に開かれた立地を選んでいたことも、地理と歴史のつながりをよく示しています。
山がちで乾燥した土地では、大規模農業よりも自給的な暮らしが中心になりやすく、集落単位の文化が根づいていきます。これは後の都市国家や地方自治の精神にもつながっていきました。
たとえばサルデーニャやクレタ島などでは、険しい山岳地帯が外敵の侵入を防ぎ、独自の文化が守られてきた──そんな歴史的背景もあるんです。
このように南欧の地理は、ただ「きれいな風景」の背景じゃありません。暑さ、乾燥、山と海──こうした自然条件とともに、人々は知恵を絞りながら独自の文化と社会を築いてきたんですね。
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