



南欧の陽光をたっぷり浴びた壁や、オレンジ色の屋根瓦、アイアンのバルコニーに咲く花々。
イタリアの家って、見ているだけで気分が上がる、そんな雰囲気がありますよね。
でも、その魅力は見た目の美しさだけではありません。
イタリアの住宅は、暑い夏と穏やかな冬という気候条件、長い歴史の積み重ね、そして地域ごとに異なる文化や暮らし方が重なり合って形づくられてきました。
家の構造や素材、間取りや装飾の一つひとつに、「こうする理由」がちゃんとあるんです。
イタリアの家は、気候と歴史、そして人々の生活の知恵がそのまま形になった存在です。
さらにイタリアには、「トゥルッリ」と呼ばれる、ちょっと不思議で印象に残る伝統家屋もあります。
見た目はかわいらしいのに、その成り立ちは意外と実用的。
そんなギャップも、イタリア住宅の面白さのひとつですね。
今回は、イタリアの住宅がどんな背景から生まれ、どんな魅力を持っているのか。
伝統的な家の特徴から地域ごとの違いまで、イタリアの住まいの世界をまとめて紹介していきます。
読み進めるうちに、街並みの見え方が少し変わってくるかもしれません。
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イタリアの家には、「地中海スタイル」と呼ばれる共通した美的センスがあります。
ただし、ひとくちにイタリアと言っても地域はさまざま。
土地や気候の違いによって、家の表情にもちゃんと個性が生まれているんです。
まずは、イタリア住宅に共通する基本的な特徴から見ていきましょう。

石造+漆喰の外壁が特徴的なイタリアの家
下層は石材の重厚感、上層は漆喰の明るさで、通りに表情を作る外壁構成。
出典:『Via Romana 12, casa 01』-Photo by Francesco Bini/Wikimedia Commons CC BY-SA 4.0
イタリアの家でよく見られるのが、石造りの構造に白やクリーム色の漆喰を塗った外壁です。
この明るい外壁は、強い日差しを反射し、室内の温度上昇を抑える役割を果たしています。
使われる石材は、その土地で採れるものが中心。
トスカーナでは赤みがかった石が使われ、シチリアでは溶岩石が用いられるなど、
地域ごとに外観の色味や質感が自然と変わってくるのも面白いところです。
イタリアの家の外壁は、景観と機能性を同時に満たす工夫の結晶です。

イタリアのオレンジ色の半筒型テラコッタ瓦(コッピ)屋根
半筒状の瓦を重ねて雨水を流す、地中海建築の定番意匠。
焼き物の赤味が街並みに温かい色調を作る。
出典:『Roof tiles in Rome』-Photo by Nicholas Gemini/Wikimedia Commons CC BY-SA 3.0
オレンジ色の半筒型テラコッタ瓦は、イタリア家屋の象徴とも言える存在です。
曲面を持つ瓦は、雨水を効率よく流し、屋根に水が溜まりにくい構造になっています。
見た目にもやわらかく、街並みに温かみを与えてくれるのが特徴ですね。
さらに、比較的傾斜の緩やかな屋根は、地震への耐性という点でも一定の実用性を持っています。

中庭に開く装飾バルコニー
中庭へ視線と風を通すバルコニーは、室内と屋外をつなぐ生活の舞台。
テラス文化とも連動して、会話や休息の場になりやすい。
出典:『Guardia Sanframondi - balconata』-Photo by Fiore Silvestro Barbato/Wikimedia Commons CC BY-SA 2.0
イタリアの家づくりで欠かせないのが、外とつながる空間の存在です。
中庭のコルティーレや、テラスのテッラッツァ、バルコニーのバルコーネなど、
屋内と屋外のあいだにある場所が、暮らしの中心になっています。
外で食事を楽しんだり、日差しを浴びながらくつろいだり、
ときには近所の人と声を掛け合ったり。
イタリアの住宅では、屋外スペースも生活の一部として大切にされているんですね。
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イタリアの住宅デザインや機能性には、長い時間をかけて積み重ねられてきた歴史が色濃く反映されています。
古代ローマから中世、そしてルネサンスを経て、人々の暮らし方が変わるたびに、家のかたちも少しずつ姿を変えてきました。

オスティア・アンティカのインスラ遺構
古代ローマの集合住宅インスラの実例で、複数階の住戸が積層した都市生活を想像できる。
出典:『OstianInsula』-Photo by Nashvilleneighbor / Wikimedia Commons Public domain
古代ローマの時代には、すでに都市住宅の原型とも言える住まいが存在していました。
富裕層の戸建て住宅であるドムスや、庶民向けの集合住宅であるインスラがその代表例です。
とくにドムスに見られる、中庭であるアトリウムを中心に据えた構造は、光や風を効率よく取り込み、家族の生活空間を内側にまとめる工夫でした。
この設計思想は、時代を超えて受け継がれ、後のイタリア住宅にも影響を与えています。

貴族階級の権威を示す屋敷パラッツォ
ルネサンス期の有力家メディチ家が建てた都市邸宅。
重厚な外観で家格を示し、内部は中庭や広間で社交を担う。
出典:『Palazzo Medici Riccardi-Florence』-Photo by Yair Haklai/Wikimedia Commons CC BY-SA 3.0
中世からルネサンス期にかけて、都市の景観は大きく変化します。
商業が発達した都市部では、商人たちが縦に長い家を建て、 1階を店舗、上階を住居とする商家スタイルが一般的になりました。
一方で、貴族階級は広い敷地にパラッツォと呼ばれる宮殿風の屋敷を構えます。
左右対称の美しいファサードや、装飾豊かな中庭や庭園。
住まいそのものが、権威と文化を示す象徴になっていた時代です。
イタリアの住宅は、暮らしの場であると同時に、時代の価値観を映す存在でした。

イタリア合理主義建築「カーサ・デル・ファッショ」
格子状の外観と直線的な造形が、20世紀イタリアのモダニズムを象徴する。
出典:『Casa del Fascio (Como) 01』-Photo by Nicola Quirico/Wikimedia Commons CC BY-SA 4.0
第二次世界大戦後になると、都市化の進行とモダニズム建築の影響を受け、 集合住宅やアパートメントが各地で増えていきます。
効率や機能性を重視した住まいが求められるようになったわけですね。
ただし、現代においても歴史とのつながりは重視されています。
外観の色や素材を地域の伝統に合わせることが求められる場面も多く、古い街並みと調和することが、住宅づくりの大切な条件になっています。
新しさと古さが共存する。
それこそが、イタリアの住宅文化が今も魅力的であり続ける理由なんですね。
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とんがり屋根のトゥルッリ
円錐形の石積み屋根が連続する、南イタリアの伝統家屋。
白壁と灰色の屋根が作る独特の外観が特徴。
出典:"Alberobello - Trulli del Rione Monti - 05" - Photo by Benjamin Smith / Wikimedia Commons CC BY-SA 4.0
イタリア南部のプーリア州を歩いていると、まるでおとぎの国にでも迷い込んだような、とんがり帽子の家々が並ぶ光景に出会います。
これが「トゥルッリ(Trulli)」と呼ばれる、プーリアならではの伝統的な住宅です。
見た目のインパクトが強く、今では観光名所としても知られていますが、その成り立ちはなかなか奥深いんです。
トゥルッリ最大の特徴は、セメントを使わず、石を積み上げるだけでつくられたドーム型の屋根にあります。
この建築技法は非常に古くから伝わるもので、構造はシンプルながら実用性は抜群。
石の層が外気を遮るため、夏はひんやりと涼しく、冬は意外なほど暖かい。
強い日差しの下で暮らす南イタリアの気候に、きちんと適応した住まいなんですね。
屋根のてっぺんには、幾何学模様や宗教的な印が描かれることも多く見られます。
これらは魔除けや信仰的な意味を持つとされ、暮らしと信仰が自然に結びついていたことを感じさせます。
トゥルッリは、素朴な構造の中に、暮らしの知恵と信仰が凝縮された家です。
トゥルッリには、少しユーモラスな逸話も残されています。
一説によると、この家は「いつでも取り壊せる仮設の建物」という建前で建てられたと言われています。
当時、恒久的な建物には課税されていたため、
石を積んでいるだけの構造なら、必要とあらばすぐに崩して「建物ではない」と主張できる。
そんな税負担を避けるための知恵が、この独特な住宅様式を生んだのではないかとも考えられているんです。
本当の理由がひとつに決まっているわけではありませんが、
厳しい制度の中でも工夫して暮らしてきた人々の姿が、
この不思議な家のかたちから、ほんのり伝わってくる気がしますね。
以上、イタリアの家について見てきました。
イタリアの住宅は、ぱっと目を引く美しさだけでなく、暑さや寒さ、風通しといった環境への工夫が随所に詰まっていることが分かります。
見た目と暮らしやすさを、きちんと両立させてきた住まいなんですね。
とくに印象的なのが、プーリア州のトゥルッリです。
少し風変わりな姿をしていながら、断熱性や構造の合理性はしっかりしていて、
そこに長い歴史と人々の知恵が重なっています。
イタリアの家は、土地の環境と人の暮らしが対話しながら生まれてきた存在です。
トゥルッリは、ただの珍しい建物ではありません。
実用性があり、物語があり、今も人の生活と結びついている。
だからこそ、生きた文化財と呼ぶにふさわしい存在なんです。
街並みを眺めるとき、
その家がどんな気候の中で、どんな暮らしを支えてきたのか。
そんな視点を添えてみると、イタリアの風景は、きっと今までより深く心に残るはずですよ。
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