
アイスランドの女性民族衣装・スカルフスブニン(1921年撮影)
頭飾りを最大の特徴とし、黒いウール地に金刺繍を合わせる伝統的な装い
出典: Olsens Kunstforlag, J. Chr.(著作権者) /Public domainより
アイスランドといえば雄大な自然やオーロラが有名ですが、実は民族衣装も独特の魅力を持っています。北欧の中でも特に孤立した環境で発展したため、デンマークやノルウェーなどの影響を受けつつも、独自の形や装飾を残してきました。女性用・男性用ともに素材や色づかいに特徴があり、19世紀以降は国民のアイデンティティを象徴する存在として愛され続けています。ここでは、女性用・男性用、そしてその歴史について詳しく見ていきましょう。
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アイスランド女性の民族衣装は、寒冷な気候に合わせた温かく重厚な作りが特徴です。代表的なものに「スカルフスブニン(Skautbúningur)」があります。これは黒や紺のウール地のドレスに、白いエプロンとレースの頭飾りを組み合わせたもので、19世紀に公式な女性礼装として定められました。
また、もっと華やかな「ファルダブニン(Faldbúningur)」は、長い尖った形や湾曲した形の帽子をかぶるスタイルで、17~18世紀に流行したものです。どちらも銀細工のブローチや鎖で留める胸飾りが欠かせず、地域や家柄によって細部のデザインが変わります。
主にウールやリネンが使われ、冬でも暖かさを保てる厚手の生地が多いのが特徴です。色は黒や紺が基調ですが、エプロンや袖口に赤や青、緑の刺繍を施すこともあり、式典用には銀糸や金糸が使われることもあります。
銀製の胸飾りやブローチ、チェーンなどは世代を超えて受け継がれる家宝であり、特別な日の装いに欠かせません。これらは単なる装飾品ではなく、家の歴史や地域の誇りを示す役割も果たしています。
アイスランドの女性民族衣装・ファルダブニン
17~19世紀に着用された、反り上がるヘッドピース(ファルド)を特徴とする伝統衣装。写真は博物館イベントでの着装例
出典: Photo by Salvor Gissurardottir / Wikimedia Commons Public domainより
男性の民族衣装は「ペイサ(Peysa)」と呼ばれるジャケットやベストに、膝丈のズボンとウールの靴下を合わせるスタイルが基本です。色は黒や深い青が多く、式典用には銀ボタンや刺繍で飾られることもあります。19世紀以降、農民から都市住民まで広く着用され、特に独立運動期には国民的な服装として象徴的な意味を持つようになりました。
ジャケットは厚手のウール製で、体温を逃さないようフィット感のある仕立てになっています。ズボンは膝下丈で、長いウール靴下と革靴を合わせるのが定番です。
ペイサを基調としたアイスランドの男性民族衣装
一列ボタンのジャケットのペイサに、房付き帽子スコットフーファを合わせた礼装系のスタイル
出典: Mariabirna(著作権者) /Creative Commons CC BY-SA 3.0(画像利用ライセンス)より
黒や紺の長い先端が垂れ下がる帽子「スカルフフットゥル(Skúfhúfa)」は、男女どちらの民族衣装にも欠かせない象徴的な服飾です。帽子の先端には房飾りが付き、その揺れが歩くたびに独特のリズムを生み出します。銀の留め具やボタンは装飾性が高く、細かな彫刻や植物模様が施されることも多く、職人技の見せどころです。
スコットフーファ
房の付いた伝統的な毛糸の帽子。アイスランドの民族衣装で男女ともに用いられる代表的な頭飾り
出典: Mannix5(著作権者) /Public domainより
アイスランドの民族衣装は、中世から近代にかけての北欧の服飾文化と密接に結びついています。長らくデンマーク支配下にあったため、素材やデザインはデンマークやノルウェーからの影響を受けつつも、島国特有の孤立した環境で独自に発展しました。19世紀に入ると民族衣装は日常着から次第に式典用・祝祭用に移行し、独立運動の時期には国民の誇りを象徴する衣服として復興・再評価されました。現在では、結婚式や国民の日(6月17日)などの特別な行事で着用され、観光や文化交流の場でも広く紹介されています。
17~18世紀の女性用民族衣装は、帽子や袖、エプロンに凝った装飾を施す豪華なものが多く、農村部では機能性を重視した簡素なものが主流でした。19世紀後半からは礼服としての役割が強まり、統一感のあるデザインが普及します。
民族衣装は今も文化的アイデンティティを示す重要なシンボルです。特に女性用は細部の手作業や素材にこだわる伝統が守られ、製作には数か月を要することも珍しくありません。
このように、アイスランドの民族衣装は、厳しい自然環境に適応した機能性と、歴史や文化を映し出す装飾性を兼ね備えた特別な存在なのです。
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