
オランダの国土
オランダは、風車とチューリップで知られる国。でもそれだけじゃありません。この平坦な国土と、湿気を含んだ海からの風、そして水と共に生きる知恵が、気候とがっちり手を結んできたんです。今回は、そんなオランダの気候の特色を手がかりに、そこから生まれた暮らし、文化、歴史までを深掘りしていきましょう。
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低地が広がるオランダには、海と風がじわじわと影響を及ぼし、その結果として独特の気候環境が形づくられてきました。
オランダ全体は西岸海洋性気候に属しています。北海に面したこの国は、年間を通して気温の変化が少なく、降水もわりと安定。1月の平均気温は約2〜3℃、7月は17〜18℃と、かなり穏やかな数字におさまっています。
オランダでは「今日は晴れ」と言っても、いつ小雨が降ってもおかしくない。年間降水量は800〜1000mm程度で、雷雨や豪雨よりも、しとしと雨が頻繁に降るのが特徴。雨具は一年中、持ち歩くのが無難です。
平坦な地形と海の近さから、風がとにかく強いのがこの国の特徴。とくに秋〜冬にかけては暴風も多く、傘がすぐ壊れるなんてことも。また、湿度も年間を通して高めで、朝霧や靄が発生しやすいのもオランダらしさ。
風と水と共にあるこの気候が、オランダ人の生活のリズムや価値観をかたちづくってきました。
オランダは国土の約4分の1が海抜ゼロメートル以下。そのため、堤防や運河を整備して水と付き合う技術が発展してきました。これは気候による降水量や湿度との戦いでもあり、風車は水をくみ出す装置としての役割も果たしてきたんです。
湿った気候は人々を家の中へと誘導します。その結果、家具や照明、インテリアの美意識が非常に高まりました。明るい照明の使い方や、大きな窓から差し込む自然光を生かす空間設計は、この気候と切り離せません。
風が強くても、雨が降っても──オランダ人は自転車で走るんです。レインコートを着込んで、体を風に預けながら走るスタイル。これも気候に根ざした生活習慣と言えるでしょう。
この湿潤で平坦な土地だからこそ、オランダは“水と戦い、水を活かす”というユニークな歴史を築いてきました。
ライン川やマース川の氾濫原にあったオランダは、もともと湿地帯だらけ。中世には修道士たちの手で干拓(ポルダー)が始まり、湿った土地を人の住める場所へと変えていきました。気候に逆らわず、でも共存するための第一歩だったんですね。
17世紀には、風車を活用した排水技術が発展し、さらに港湾都市が栄える中で貿易国家オランダが誕生。湿潤で気温差が小さいおかげで、港は年中使いやすく、アムステルダムやロッテルダムは一大商業都市として飛躍を遂げました。
1953年の北海大洪水では、高潮と暴風雨で大打撃を受けました。これを契機にデルタ計画という巨大な治水プロジェクトが進行し、堤防・水門・可動式バリアが整備されました。これらは気候変動時代の“最先端インフラ”とも呼ばれています。
現在のオランダでは、気温の上昇・降水量の増加・高潮リスクなどに対して、積極的な水と都市の再設計が進んでいます。たとえば、雨水を一時的に貯める都市公園や浮かぶ住宅など、「水と共に生きる」ための新しいアプローチが模索されているのです。
オランダの気候は、静かにしっとりとした表情をもっていながら、その裏には水と風との格闘と工夫がぎっしり詰まっています。だからこそ、オランダの街並みや暮らしは、どこか詩的で、力強くて、美しいんですね。
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