
ヨーロッパのステップ気候領域
黄色が寒冷なステップ地帯で、オレンジが暑い乾燥地に近いステップ地帯
出典:Photo by Carnby / Wikimedia Commons CC BY?SA 3.0より
ヨーロッパというと、緑豊かな森や湿潤な気候を思い浮かべがちですが、じつはその一角には「ステップ気候」と呼ばれる乾燥した草原地帯が広がっているんです。このステップ気候、アジアのイメージが強いかもしれませんが、ヨーロッパにもちゃんと存在していて、しかも歴史的にも重要な役割を果たしてきました。このページでは、ヨーロッパにおけるステップ気候の分布国と、それぞれの地域の自然・文化・歴史との関わりをわかりやすくかみ砕いて解説します。
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まず紹介したいのが、ヨーロッパで最も典型的なステップ地帯が存在するウクライナです。
ウクライナ東部や南部──とくにドニプロ川以東や黒海北岸には、乾燥した平原地帯が広がっています。この地域では年間降水量が少なく、森林も育ちにくいため、丈の低い多年草を中心としたステップ植生が見られます。
ウクライナのステップ地帯は古くから「プーチャ」と呼ばれ、スキタイ、フン族、キエフ・ルーシなどの舞台となってきました。草原の風土が生んだ遊牧文化や騎馬戦術が、ヨーロッパ世界の境界を大きく揺さぶったのです。
ヨーロッパ・ロシアにも、ウクライナと地続きのステップ地帯が存在します。
ヴォルゴグラードやアストラハン周辺といった、ロシアの南西部には、明確にステップ気候に分類されるエリアがあります。このあたりは降水量が少なく、夏は非常に暑くなる半乾燥地帯です。
この地域では、かつてはノガイ族やカザフ系の遊牧民が活動していましたが、近代以降は大規模な灌漑農業も導入され、風土とのせめぎ合いが続いています。ステップの土壌は肥沃な「チェルノーゼム」が多く、耕作と乾燥とのバランスがカギなんですね。
明確に「BS(ステップ気候)」に分類されるわけではなくても、ステップ的な風景や植生が見られる地域がいくつか存在します。
モルドバの南部地域では、ステップ気候に近い半乾燥地帯が見られ、牧草地や放牧が伝統的な生業として営まれてきました。近年は気候変動の影響もあり、降水量の減少傾向がステップ化を進めているとも言われています。
ヨーロッパの西の端、スペイン南東部(ムルシア州など)には、砂漠的ではないものの、年間降水量が少ない半乾燥地域があり、「地中海型ステップ」と呼ばれることもあります。こちらはアジア的なステップとは雰囲気が異なりますが、気候区分上は同じBSに該当することがあります。
ヨーロッパにおけるステップ気候は、ウクライナやロシア南部を中心に広がり、遊牧と農耕、自然と人間のせめぎ合いの舞台となってきました。草原の風は、いまも歴史の記憶とともにヨーロッパ東縁を吹き抜けているのです。
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