古代ローマの上流階級にとって「食べる」ことは至高の娯楽でした。貴族ローマ人の食事の時間は夕方から、長ければ深夜まで続いたといい、招待客同士の会話はもちろんのこと、音楽や詩の朗読、大道芸などを楽しみながら食事をしていました。ただしよく言われる「ローマ貴族はよりたくさん食べるために、食べては吐くを繰り返していた」が史実かどうかははっきりとしたことはわかっていません。
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もちろん中にはそういうことをする人もいたでしょうが、それが貴族の間で常態化していたかまでは、それを示す確かな証拠がありません。古代ローマの医学書に「健康法」として食べたものを吐き出すことを推奨する記述があるくらいです。※
確かに贅沢な食生活を送っていたのは事実で、あまりにも食べる量が多いものだから、吐いてしまう人もそれは出たことでしょう。「食べるために吐いていた」という逸話は、それが誇張された俗説だとも考えられます。
※この「健康法」は現代医学の観点からは明らかに間違いだと思われ、食後の嘔吐を癖にしてしまうと、普通に食事をしていても吐いてしまったり、食道裂傷を起こしたり、胃酸で歯が酷く傷んでしまうことがあるのでマネしないようにしましょう。
ローマ貴族の宴会は「コンヴィウム」と呼ばれ、これは単なる食事の場を超えて社交の場でもありました。食事は数時間にわたって続き、前菜(gustatio)、主菜(prima mensa)、デザート(secunda mensa)と多彩な料理が次々と供されました。料理の内容も豪華で、珍しい食材や手の込んだ料理が並びました。
宴会は「トリクリニウム」という専用の部屋で行われました。ここでは三つのソファがU字型に配置され、ゲストは横たわりながら食事を楽しみました。このスタイルはリラックスして食事と会話を楽しむためのもので、まさに贅沢の象徴でした。
ローマ貴族の食事には、多彩な食材が使われました。魚介類、野鳥、牛肉、豚肉、羊肉、さらにはエキゾチックな食材まで幅広く取り入れられました。また、香辛料やハーブをふんだんに使い、味わい豊かな料理が作られました。
特に有名なのは「ガルム」と呼ばれる魚醤で、これが料理の風味を引き立てる重要な調味料でした。ガルムは魚を塩漬けにして発酵させたもので、ローマ料理に欠かせない存在でした。
古代ローマの貴族社会において、「食べること」は非常に重要な娯楽であり、社交活動の一環として位置づけられていました。食事の時間は長時間にわたり、豪華な料理やエンターテインメントが楽しめました。食べ過ぎて嘔吐することがあったとしても、それが常態化していたという確かな証拠はありません。「食べるために吐いていた」という話は、誇張された俗説である可能性が高いです。
古代ローマの饗宴文化は、食事が単なる栄養摂取以上の社会的・文化的な意味を持っていたことを示しています。その豪華な食生活と社交の場は、現代にも影響を与える重要な文化遺産と言えるでしょう。
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