大航海時代とは、ヨーロッパ人が大洋に続々進出する遠洋航海の時代で、帆船(速度は7ノット程度)による大洋横断には数か月かかりました。その間、乗組員は飲用水をどうしていたのかといえば、大部分をお酒に頼っていたのが実情です。保存技術も消毒技術もままならなかった当時において、新鮮な水をいくら樽に積んでおいたところで、あっという間に腐って飲めなくなってしまうので、腐りにくい酒を大量に積んでいたのです。
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始めはビールやワインが飲まれていましたが、熱帯地域ではこれらの酒ですら腐って飲めなくなってしまいました。そこで重用されるようになったのがサトウキビの糖蜜を発酵させてできる蒸留酒ラム酒です。
ラム酒は大航海時代の開幕間もない16世紀初め、アメリカに植民したスペイン人によって製造されたとされ、蒸留酒なために劣化する心配がありません。アメリカで砂糖プランテーションが拡大するとともに、その製造もさかんになっていきました。大航海時代が終わりに差し掛かる17世紀には、イギリス海軍が士気を高めるためや、船上生活の数少ない娯楽として、乗員にラム酒を支給しています。
ラム酒は、蒸留によってアルコール度数が高くなり、腐敗しにくくなります。これにより、長期間の航海でも品質が保たれ、飲用水の代わりとして最適でした。また、熱帯地域でも劣化しないため、ビールやワインよりも優れた選択肢となりました。
ラム酒は単に水分補給の手段としてだけでなく、健康維持や病気予防の目的でも重要でした。アルコールには殺菌作用があるため、飲用水として使用することで、船員たちは水に含まれる病原菌から守られることができました。また、ビタミンCを補うためにラム酒にライムを加えることで、壊血病の予防にも役立ちました。
ラム酒は、船員たちの士気を高めるための手段としても重宝されました。長期間の過酷な航海生活では、精神的な疲労やストレスがたまりやすく、船員たちの士気を保つことが重要でした。ラム酒は、その味わいとアルコールによるリラックス効果で、船員たちの気分を高め、チームの結束を強化する役割を果たしました。
ラム酒は貿易品としても重要でした。大航海時代には、ヨーロッパとアメリカ大陸、アフリカとの間で盛んに交易が行われ、ラム酒はその一環として取引されました。砂糖プランテーションで生産された糖蜜から作られるラム酒は、高い経済価値を持ち、ヨーロッパ市場で高値で取引されました。
ラム酒は、大航海時代の船乗りたちにとって欠かせない存在でした。保存性の高さ、健康維持、士気の向上、そして経済的な価値など、多くの理由から重宝されました。ラム酒は、単なる飲料以上の役割を果たし、過酷な航海生活を支える重要な要素となりました。
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