ヨーロッパの行政区分

ヨーロッパの行政区分


ヨーロッパとは、地理ではなく理念である。
それは分裂と統合、信仰と理性の緊張のなかで鍛えられた精神の名だ。

 

─ 歴史家・レジーヌ・ペルヌー(1909 - 1998)

 

ヨーロッパにはじつに多様な「行政区分」が存在しています。ただし「州」や「県」といった区分は、どの国も同じように持っているわけではありません。地理的・歴史的・政治的な背景によって、それぞれ独自の仕組みがあるんです。今回は、そんなヨーロッパ各国の行政区分について、いくつかのパターンに分けて見ていきましょう。

 

 

連邦制国家の行政区分

まずは、国の中に「国のような地方」が存在している、連邦制の国々から見ていきましょう。

 

ドイツの「州(ラント)」

ドイツは16の連邦州(Bundeslander)に分かれています。それぞれが憲法を持ち、教育や警察、文化政策などに独自の裁量を持っているんです。たとえばバイエルン州ベルリン市では、学校制度も警察の制度も違うということ。

 

スイスの「カントン」

スイスには26のカントンがありますが、こちらもかなりの自治権をもっています。公用語も州によって違い、ドイツ語・フランス語・イタリア語が入り混じる独特な分権国家です。

 

中央集権国家の行政区分

続いては、国の中心から地方を管理していく中央集権型の国を見ていきます。

 

フランスの「地域圏と県」

フランス13の地域圏(regions)96の県(departements)に分かれています。行政権は中央政府が握っており、地方にはある程度の裁量はあるものの、基本的には国主導で政策が展開されます。首都のパリが極端に集中しているのもこの影響です。

 

イタリアの「州(レジョーネ)」

イタリア20の州(regioni)からなり、その中の5州特別自治州としてより大きな自治権を持っています。たとえばシチリア州サルデーニャ州は、独自の税制度や言語政策を展開できる仕組みを持っています。

 

地域自治を重視する区分

最後に、連邦でも中央集権でもないけれど、地方に独特の“自律性”をもたせている国々を紹介します。

 

スペインの「自治州」

スペインには17の自治州(comunidades autonomas)があり、これがかなり強力。中でもカタルーニャバスクなどは言語も文化も別格で、時には独立運動も起こるほど。行政の力だけでなく、民族的なアイデンティティとも結びついているのが特徴です。

 

イギリスの「構成国」

イギリスという国は、じつはイングランド・スコットランド・ウェールズ・北アイルランド4つの構成国から成り立っています。それぞれが独自の議会と行政権を持ち、教育・医療・法律に至るまで独立性を発揮しています。とくにスコットランドでは、しばしば独立をめぐる国民投票が行われるなど、単なる行政単位を超えた存在となっているのです。

 

各国の行政区分制度一覧表

東欧

ポーランド 16の県(ヴォイヴォディンシップ)
チェコ 14の州(クライ)
スロバキア 8の州(クライ)
ハンガリー 19の県と首都ブダペスト
ルーマニア 41県と首都ブカレスト
ブルガリア 28州(オブラスト)
ウクライナ 24州(オーブラスチ)、1自治共和国(クリミア)、2特別市
ベラルーシ 6州(オブラスチ)と首都ミンスク特別区
モルドバ 32地区(ライオヌ)と3自治地域
ロシア(ヨーロッパ側) 共和国・州・地方など多様な行政単位(例:モスクワ市、レニングラード州など)
セルビア 29行政区と2つの自治州(ヴォイヴォディナ、コソボ・メトヒヤ)
北マケドニア 80の市(オプシュティナ)
アルバニア 12の県(クェルク)
ボスニア・ヘルツェゴビナ 2構成体(連邦・スルプスカ)とブルチュコ特別区
モンテネグロ 24の市町(オプシュティナ)

 

西欧

フランス 13地域圏(本土)と5海外地域圏、101県
ドイツ 16州(連邦州/ラント)
オーストリア 9州(ブンデスラント)
スイス 26州(カントン)
ベルギー 3地域(フランデレン、ワロン、ブリュッセル)と10州
オランダ 12州(プロヴィンシー)
ルクセンブルク 12カントンと102コミューン
イギリス イングランド・スコットランド・ウェールズ・北アイルランドの4地域に分かれ、それぞれ独自の行政区(例:イングランドは48単一自治体など)
アイルランド 26県(カウンティ)と3市(ダブリンなど)

 

中欧

ドイツ 16州(連邦州/ラント)
オーストリア 9州(ブンデスラント)
スイス 26州(カントン)
ポーランド 16の県(ヴォイヴォディンシップ)
チェコ 14の州(クライ)
スロバキア 8の州(クライ)
ハンガリー 19の県と首都ブダペスト
スロベニア 12統計地域と212市町村(オプチナ)

 

南欧

イタリア 20州(レジョーネ)と107県(プロヴィンチャ/都市圏)
スペイン 17自治州と2自治都市(セウタ、メリリャ)
ポルトガル 5本土地域と2自治地域(アゾレス、マデイラ)、308市町(ムニシピオ)
ギリシャ 13の地方(ペリフェリア)と325市町(ディモス)
クロアチア 20郡(ジュパニヤ)と首都ザグレブ
ボスニア・ヘルツェゴビナ 2構成体(連邦・スルプスカ)とブルチュコ特別区
モンテネグロ 24の市町(オプシュティナ)
アルバニア 12の県(クェルク)
北マケドニア 80の市(オプシュティナ)
マルタ 5地域と68地方議会区
サンマリノ 9の市町(カステッリ)
バチカン市国 単一の国家機構(行政区なし)

 

北欧

スウェーデン 21県(レーン)と290市町村(コムーン)
ノルウェー 15県(フュルケ)と356市町村(コムーネ)
デンマーク 5地域(レギオン)と98市町(コミューン)
フィンランド 19県(マークンタ)と309基礎自治体(クンタ)
アイスランド 8地域区分と64地方自治体(スヴェイタルフェラグ)
エストニア 15県(マアコンナ)と79自治体(都市・農村)
ラトビア 7統計地域と36自治体
リトアニア 10郡(アプスクリティス)と60市区町村

 

このように、ヨーロッパの行政区分ってじつはとっても多彩。国の形そのものを映し出す“鏡”とも言えるので、制度を見るだけで、その国の歴史や価値観が浮かび上がってくるんですね。