
一年を通じて温暖で湿潤、しかも気温差が小さい──
そんな西岸海洋性気候は、まさに「暮らしやすさ」に恵まれた気候と言えるかもしれません。ヨーロッパの西部を中心に広がるこの気候は、ただ快適なだけでなく、地域ごとの衣服や食、そして住まいのあり方に深く影響を与えてきました。
人々はこの穏やかな気候と上手につきあいながら、自分たちの文化や暮らしを少しずつ育ててきたのです。このページでは、そんな西岸海洋性気候のもとで生まれた衣食住のスタイルに注目し、その背景にある気候との関係をひもといていきます。
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西岸海洋性気候の地域では、年間を通して気温の変化がゆるやかなので、服装は基本的に重ね着スタイルが主流です。
冬もそこまで寒くないため、分厚いコートなどはあまり必要ありません。ただ、湿気が高いので、防水性や保温性のある素材が重宝されます。たとえば羊毛(ウール)やゴアテックスといった素材が人気です。
こうした素材は、湿気をうまく逃がしながら体温をキープしてくれるので、外で過ごす時間も快適に保てるんですね。
ウール
羊の毛を原料とした天然繊維であり、防水性や保温性に優れる
出典:Photo by Ken Hammond / Wikipedia commons Public Domainより
ちなみに年間を通じて温暖で雨が多いということは、牧草がよく育ち、放牧に最適ということでもあります。なので、イギリス西部、フランス北西部などでは、高品質の羊毛(ウール)生産が盛んなんですよ。
夏もわりと涼しいため、薄手のジャケットやカーディガンが大活躍します。少し肌寒い日にも対応できて、気まぐれな天気の変化にも柔軟に合わせられるのがポイントです。
それと、雨の多いこの地域では、傘やレインコートはほぼ必需品。最近では、機能性に加えてデザイン性も兼ね備えたレインウェアが増えていて、日常づかいはもちろん、アウトドアにもぴったり。もはやファッションの一部として定着しています。
黄色いレインコートの子供
イギリスなどでは、機能性だけでなく、スタイルの一部としてのレインウェア文化が強く、街中では傘ではなく上質なレインコート姿を見ることが多い
出典:Photo by Jim Grandy / Wikipedia commons CC BY 2.0より
こんなふうに、西岸海洋性気候のもとでは、実用性と快適さを両立させたスタイルが発展してきました。
地域ごとに異なる伝統的な衣装も多く見られます。たとえば、スコットランドではキルト、アイルランドではアランセーターが有名ですね。
これらの衣装は、それぞれの気候に合わせて作られていて、今でもその土地の文化的アイデンティティを象徴する大切な存在となっています。
キルトを着たエディンバラ城の守衛
出典:Photo by Philip Allfrey / Wikipedia commons CC BY-SA 2.5より
西岸海洋性気候の地域は、雨が多くて気温も穏やかなので、農業がとても盛んです。だから、新鮮な野菜や果物はもちろん、海の幸もたっぷり楽しめるんです。
イギリスやフランスの西岸地域では、魚介を使った料理がとても豊富です。たとえば、フランスのブルターニュ地方やノルマンディー地方では、ムール貝やオイスター、そしてラ・コート・ド・グラナイト・ローズで獲れるロブスターなど、地元の海の恵みを活かした料理が有名なんですよ。
ブルターニュのコトリアード
新鮮な白身魚や貝、ハーブ、じゃがいもが溶け合ったブルターニュ地方伝統の魚介スープ
出典:Photo by Arnaud 25 / Wikipedia commons CC BY-SA 4.0より
一方、アイルランドやスコットランドでは羊肉を使った伝統料理が根付いていて、アイルランドのシチューやスコットランドのハギスはその代表格です。
アイルランドのモダン羊肉料理
根菜やハーブとともにじっくり調理され、温かく滋味深い味わいが楽しめる羊肉料理
出典:Photo by Zackgallagher / Wikipedia commons CC BY-SA 4.0より
西岸海洋性気候地域では、季節ごとに旬の食材を使った料理が親しまれていて、それぞれの土地ならではの食文化が育まれているのです。
さらに、この温暖な気候はワインづくりにも向いていて、フランスのボルドー地方やブルゴーニュ地方、ドイツのライン川沿いでは、世界に名だたるワインが造られています。
ボルドー地方のぶどう畑
豊かな土壌と温暖な気候に育まれたボルドー地方のぶどう畑
出典:Photo by davitydave / Wikipedia commons CC BY-SA 4.0より
それぞれの地域のワインは、地元の気候や土壌を活かしていて、独自の風味を持っているのが魅力です。
また、イギリスではクラフトビールやシードル(リンゴ酒)の醸造が盛んで、地元でとれた穀物や果物を使って、バリエーション豊かな飲み物が作られています。
こんなふうに、西岸海洋性気候の地域では、地元の恵みを活かした豊かな食文化がしっかり根付いていて、季節のうつろいとともに味わう料理や飲み物が、日々の暮らしに深く溶け込んでいるんですね。
西岸海洋性気候の地域では、家の建て方にも気候への工夫がしっかり取り入れられています。湿気が多くて雨もよく降るため、屋根は急な角度に設計されていて、雨水がスムーズに流れ落ちるようになっているんです。
こうした屋根のスタイルは、特にイギリスのコテージやフランスのシャトーなどに色濃く見られます。
イングランドのコテージ
急な角度の屋根は雨水を速やかに流すため
出典:Photo by Man vyi / Wikipedia commons Public Domainより
冬もそこまで寒くないので、北欧みたいにがっつり断熱材を使う必要はありませんが、湿気を避けるために通気性の良い建材が使われています。イギリスの伝統的な家ではレンガや石材がよく使われていて、これらは湿気をうまく逃がしてくれるんですね。
フランスやドイツでは、木材とレンガを組み合わせた建て方が主流で、湿気の悩みを抑えつつ、見た目にもあたたかみのある住まいが実現されています。さらに、大きな窓でたっぷりと自然光を取り入れて、部屋の中を明るく保つ工夫も欠かせません。
そして、風通しをよくするために、開け閉めできる窓が好まれるのも特徴です。
ノルマンディー地方の木組みとレンガの家
出典:Photo by CEphoto, Uwe Aranas / Wikipedia commons CC BY-SA 3.0より
こうした地域では、季節ごとの自然を楽しむ庭づくりにも力が入っていて、イギリスのコテージガーデンやフランスのフォルマルガーデンのように、国ごとに個性ある庭園文化が息づいているんです。
これらの庭は、ただの飾りではなく、住まいの一部として暮らしに取り込まれていて、自然とのつながりを大切にする暮らしぶりがよく表れていますね。
西岸海洋性気候は、ヨーロッパの広い地域に影響を与えていて、その特徴的な気候条件が衣食住にしっかり根づいた文化を形づくっています。
服装の面では、機能性と快適さを両立させたファッションが発展し、食文化では地元の食材を活かした多彩な料理が親しまれています。また、住まいの建て方にもその気候が色濃く反映されていて、雨や湿気に対応した工夫が随所に見られます。
こうした文化は、西岸海洋性気候という自然環境と切っても切り離せない関係にあり、その土地の歴史や伝統とともに育まれてきたものです。気候というのは私たちの暮らしに深く関わり、独自の文化を育てる大きな力を持っているんですね。
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