
アファイア神殿の柱列(ドーリス式)
アイギナ島にあるアファイア神殿は、古代ギリシアの建築遺構で、ドーリス式列柱が印象的な神殿の姿を伝える
出典:Alun Salt(著作権者) / creative commons CC BY‑SA 2.0(画像利用ライセンス)より
アファイア神殿って、パルテノン神殿ほどの知名度はないけれど、実は古代ギリシア建築の魅力がぎゅっと詰まった“隠れた名作”なんです。場所はアテネからそう遠くないエギナ島。海を見渡せる高台に立っていて、今でもその白い石造りの姿が松林の緑とエーゲ海の青に映えています。観光ガイドによっては「小ぶりなパルテノン」なんて呼ばれたりしますが、実際にはその歴史や造りに独自の個性と物語があり、訪れる人を静かに魅了する存在なんですよ。今回は、このアファイア神殿を「場所・環境地理」「特徴・建築様式」「建築期間・歴史」という3つの視点から、たっぷり掘り下げてみます。
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アファイア神殿は、サロニコス湾に浮かぶエギナ島の東側、標高およそ160mの丘の上に位置しています。古代の人々にとっては、宗教的にも戦略的にも価値の高い立地でした。
エギナ島はアテネからフェリーで約1時間という近さで、古代から交易の中継地として栄えてきました。海に囲まれた環境は天然の防壁でありながら、船舶の行き来をコントロールできる要衝でもあったんです。
神殿の丘からはエーゲ海の輝きと、遠くペロポネソス半島の山並みまで見渡せます。天気の良い日には、アテネのアクロポリスやスニオン岬のポセイドン神殿までも視界に入るんですよ。この圧倒的な眺望こそ、神々に祈りを捧げる場所として選ばれた大きな理由だったといえるでしょう。
周囲は松林が広がり、海から吹き上げる風が心地よく通り抜けます。白い大理石の神殿が緑の木々と青い海に包まれて立つ姿は、人工物でありながら自然の一部のように溶け込んでいるのです。
アファイア神殿は、ドーリア式建築の完成度を示す重要な遺跡です。保存状態が良く、当時の建築技術や美意識を直接感じ取ることができます。
太く安定感のある柱と、無駄を省いたシンプルな装飾。これがドーリア式の特徴であり、この神殿はその様式美を極めた存在です。比率や柱間の感覚まで計算され、見る角度によって印象が変わる巧妙なデザインが施されています。
神殿の三角形の破風(ペディメント)には、トロイア戦争の場面を描いた精巧な彫刻がありました。西側には女神アテナと戦士たちの姿、東側には別の戦闘場面が表現され、神話世界が立体的に再現されていたのです。これらの彫刻は現在、ドイツ・ミュンヘンのグリプトテーク美術館で保存展示されています。
神殿の柱の多くが現存し、基壇や構造が明確に分かるため、古代ギリシアの神殿建築を学ぶうえで貴重な資料となっています。遺跡として歩くと、当時の参拝者が見上げたであろう景色をそのまま味わえるのです。
この神殿は、一度建てられて終わりではなく、火災や戦乱を経て再建された歴史を持っています。
最初の神殿は紀元前6世紀に建てられましたが、火災によって大部分が失われます。その後、紀元前500年ごろに新しい神殿として再建され、現在の姿に近い構造が完成しました。
アファイアはエギナ島特有の女神で、狩猟や豊穣を司る存在として崇拝されていました。後にはアルテミスやアテナと同一視されるようになり、この神殿は島民の信仰の中心となっていたのです。
ローマ時代以降、信仰の衰えとともに神殿は使われなくなり、長らく廃墟のままでした。19世紀初頭、ヨーロッパの探検家たちによって再発見され、発掘調査が進められます。こうしてアファイア神殿は再び光を浴び、古代建築研究の重要な拠点となりました。
このようにアファイア神殿は、エギナ島の高台にそびえるドーリア式建築の傑作であり、自然と調和した景観、精緻な造形、そして再建と保存の歴史を併せ持つ特別な遺跡なのです。パルテノン神殿ほどの規模や知名度はなくても、海と森に抱かれたこの神殿には独自の静けさと神聖さが漂い、訪れる人を2000年以上前の古代ギリシアへと一瞬で連れて行ってくれます。だからこそ、この場所に立つと、風や光までもが当時の人々の祈りと繋がっているように感じられるわけですね。
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