


ロシアの民族衣装は、広大な国土と多様な民族背景を反映したデザインが魅力です。寒冷な気候に対応した厚手の生地や重ね着スタイルが多く、同時に色鮮やかな装飾や刺繍がふんだんに施されています。中でも女性の「サラファン」や男性の「ルバハ」は、ロシアの伝統服として特に有名です。ここでは女性用・男性用、そして歴史的背景に分けて紹介します。
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ロシアの女性民族衣装・サラファン
赤いサラファンに頭飾りを合わせた伝統的な装い
北・中部ロシアで広まった袖なしワンピース型の民族衣装
出典: Lucian Popov (author) / Wikimedia Commons Public domainより
女性の代表的な民族衣装は「サラファン」と呼ばれる袖なしワンピースです。長くゆったりした形で、下に「ルバハ」と呼ばれる長袖シャツを重ねます。
生地は地方や季節によって異なり、夏は薄手の綿や麻、冬はウールやベルベットが使われます。胸元や裾には鮮やかな刺繍やブレードが施され、特に赤・青・金といった色が好まれます。
サラファンは北部ロシアで広く普及し、結婚式や収穫祭などの特別な場で豪華に着飾られます。刺繍は家族や地域の模様が入り、縁起の良い幾何学柄や植物モチーフが多いです。
ルバハは白を基調に袖口や襟元に色糸を使った刺繍が入ります。現代の民俗舞踊でも必ずと言っていいほど登場する組み合わせです。
既婚女性は「ココーシュニク」と呼ばれる扇形の頭飾りを着用します。これは金糸刺繍やビーズで装飾され、格式を象徴します。
独身女性は花冠やリボンを使い、若さや純潔を表現。首飾りには多連のビーズやコインネックレスが好まれ、華やかさを引き立てます。
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ロシアの男性民族衣装
襟元を斜めに合わせるコソヴォロトカ型のルバハ。腰帯で締める麻の刺繍シャツで、祝祭の場などで着られる。
出典: Photo by Kapelka ya / Wikimedia Commons CC BY-SA 4.0より
ロシア男性はルバハと呼ばれる長袖チュニック型シャツを基本に、ウエストに幅広の帯を締めます。ズボンはシンプルながらも動きやすい形で、農作業や舞踊に適しています。冬は毛皮の帽子「ウシャンカ」や厚手の外套を着用し、防寒性を高めます。
ルバハは腰丈から太もも丈までの長さがあり、襟元が片方にずれる独特の形をしています。刺繍は袖口と襟元に集中し、赤糸が魔除けとして好まれました。帯は実用的な締め具であると同時に、色柄で身分や地域を示す役割も持っていました。
ズボンはゆったりしたストレート型で、素材は季節に合わせて麻・綿・ウールが選ばれます。冬季はウシャンカや毛皮のコートを重ね、極寒の気候に対応。これらの防寒具も地方ごとに形や装飾が異なり、文化的特徴が表れます。
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ロシアの民族衣装は、スラブ系民族の古代衣装をベースに中世の貴族文化と農民文化が融合して発展してきました。17世紀までは貴族も農民も似た形の服をまとっていましたが、ピョートル大帝による西欧化政策の影響で都市部の貴族層は急速に洋服へ移行します。
その一方で、農村部では昔ながらの民族衣装が受け継がれ、祭礼や儀式の場でも着られ続けました。こうして民族衣装は、日常着から次第に「伝統とアイデンティティを守る象徴」へと変わっていったのです。ロシアの民族衣装は、暮らしと歴史を映し出す文化遺産だったのです。
北部は寒冷地仕様の厚手生地を用い、暗めの色調で落ち着いた雰囲気を持つのが特徴です。寒さをしのぐためにウールやフェルトを重ね、実用性を優先しながらも袖や裾には繊細な刺繍が加えられていました。
一方で南部は軽やかな素材と明るい色を用いた衣装が中心。赤や白、金糸を使った華やかな刺繍が施され、豊かな自然や太陽を思わせるデザインが好まれました。
刺繍には太陽や植物、鳥などのモチーフが多く取り入れられ、豊穣や家族の繁栄を願う祈りが込められていたのです。
現代では民俗舞踊や祝祭で民族衣装が着用されるほか、観光イベントやウェディングフォトでも人気があります。特に女性用の髪飾り「ココーシュニク」は、その豪華で優雅なデザインからファッションショーや舞台衣装にも取り入れられ、伝統文化と現代的な創造性をつなぐ存在となっています。
民族衣装は過去の遺物ではなく、今もなおロシアの美意識と誇りを体現し続けているのです。
こうして見ると、ロシアの民族衣装は、寒さに負けない実用性と、文化を彩る豪華な装飾が同居する独特な魅力を持っています。
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