ステップ気候の名前の由来|なぜステップと呼ぶの?

夕刻のロシア・ステップ(草原)
広大なロシアの草原地帯を描いた風景。ステップの語源はロシア語の「step」にあり、「平坦な草地」を意味している。

出典:Artist by Arkhip Kuindzhi / Wikimedia Commons Public Domainより

 

広大な草原が地平線まで広がる──そんなイメージで語られるステップ気候。でも、そもそも「ステップ(steppe)」ってどういう意味?なぜこの気候帯だけが「ステップ」と呼ばれているのでしょうか?この名前には、じつはヨーロッパとアジアの歴史的な交流や、自然環境に対するヨーロッパ的な見方が深く関係しているんです。今回は、この「ステップ気候」という名前の由来をたどりながら、その言葉の背後にある文化的背景をわかりやすくかみ砕いて解説していきます。

 

 

語源は東ヨーロッパの大草原

まずは「ステップ」という言葉そのものが、どこから来たのかをひもといてみましょう。

 

ロシア語・ウクライナ語の「step’」

「ステップ(steppe)」という言葉の語源は、ロシア語やウクライナ語の「степь(step’)」。これは「樹木のない広大な草原地帯」を指す言葉で、現在のウクライナやロシア南部に広がる自然景観を表したものでした。英語やフランス語を通じて、この言葉がそのまま国際的に使われるようになったのです。

 

ヨーロッパ人の旅人が命名

18〜19世紀、多くのヨーロッパの博物学者や地理学者がロシア帝国領や中央アジアを探検した際、この「step’」という現地語をそのまま借用して紹介しました。そこから、地理学や気候分類の中でも乾燥した草原地帯=ステップという呼び方が定着していったんですね。

 

気候との結びつき

次に、「ステップ」が単なる地形の名前にとどまらず、どうして気候の区分名としても使われるようになったのかを見ていきましょう。

 

乾燥草原と気候の対応

ステップ地域には丈の低い草が広がり、雨は少なめで、森林は育たない──これは気候が植生に与える影響を如実に表しています。こうした地域がケッペンの気候区分で「BS」(ステップ気候)と呼ばれたのは、まさにこの「草原らしさ」を軸に分類が行われたからなんです。

 

砂漠との中間に位置する性質

ステップ気候は、完全な乾燥地である砂漠気候(BW)と、もう少し湿潤な温帯気候のちょうど中間にあたります。その「半乾燥性」という中間的な性格を、地表に広がる植生(=ステップ)でわかりやすく表現したというわけです。

 

文化と歴史の中のステップ

最後に、「ステップ」という名前が、ヨーロッパ世界にとってどんなイメージや文化的意味を持ってきたのかを見てみましょう。

 

文明の境界としての草原

ヨーロッパ中世から近代にかけて、ステップ地帯は遊牧民と定住民の境界線として意識されてきました。西ヨーロッパから見れば、ステップは異質な世界への入り口。フン族、マジャール人、モンゴルなど、草原から現れた勢力はしばしばヨーロッパに脅威を与え、「ステップ=野生と力の象徴」というイメージが定着していきました。

 

ロマンと憧れの象徴

一方で、19世紀のロシア文学やヨーロッパの詩人たちのあいだでは、ステップは自由と孤独、自然との一体感を象徴する空間として描かれてきました。たとえばトルストイやチェーホフの作品にも、ステップの風景がしばしば登場します。気候や地形を超えて、「ステップ」という言葉が文化的価値を帯びていったのです。

 

「ステップ気候」という名前は、単なる地理用語ではなく、ロシア語由来の草原文化と、ヨーロッパ世界との出会いから生まれた呼び名だったのです。自然と人間の関係、そして文明と文明のあいだの境界線──そのすべてを含んだ、重みのある言葉なんですね。