ルーマニアの民族衣装の特徴

ルーマニアの民族衣装

「ルーマニアの民族衣装」は山岳地帯から平原まで多様な地形の影響を受け、地域ごとに独特の刺繍や配色が発達した。中でも「イエ」と呼ばれる刺繍ブラウスは国の象徴として広く知られる。本ページでは、このあたりの民族的背景とルーマニア文化との関連について詳しく掘り下げていく。

ルーマニアの民族衣装の特徴

ルーマニアの女性民族衣装(オラデアの衣装フェア)

ルーマニアの女性民族衣装
オラデアの衣装フェアで撮影された着用例。刺繡の入ったブラウスを中心に、地域ごとに柄や配色が変わる

出典: Photo by Ymuge / Wikimedia Commons CC BY-SA 4.0より


ルーマニアの民族衣装は、白を基調にした清楚な雰囲気と、地方ごとに異なるカラフルな刺繍が魅力です。山岳地帯から平原地帯まで、地域によって模様や色づかいがガラッと変わるので、同じ国でもまったく違う印象を受けます。特に女性のブラウス「イー(Ie)」は世界的にも知られるほど有名で、ルーマニア文化の象徴です。ここでは女性用・男性用、そして歴史的背景に分けて見ていきます。



ルーマニア女性の民族衣装

ルーマニアの刺繡ブラウス(イー、19世紀・メトロポリタン美術館所蔵)

ルーマニアのイー(Ie)
19世紀前半の刺繡ブラウス。幾何学模様の刺繡が施された伝統衣装の上衣で、地域ごとに配色や文様が異なる

出典: The Metropolitan Museum of Art / Creative Commons CC0 1.0より


女性は白いイー(Ie)に色鮮やかな刺繍を施し、長いスカートとエプロンを組み合わせるのが基本形です。刺繍の模様は、ただの飾りではなく地域や家系を示す重要な印でもあります。特別な祭りや結婚式では豪華な装飾が加わり、金や銀の糸を使った刺繍やビーズ飾りが施されます。髪には花飾りやスカーフを巻き、華やかさと温かみを併せ持つ印象になります。


イー(Ie)とスカート

イーは麻や綿を素材とし、袖や胸元に入る刺繍は幾何学模様や花柄など多種多様です。地方によっては色使いやステッチの細かさが大きく異なります。スカートは無地から縞模様まであり、腰にはエプロンを重ねます。エプロンも刺繍や織り模様が豊富で、日常用は簡素、祭礼用は豪華といった具合に使い分けられます。


アクセサリーと頭飾り

首元には赤や黒のビーズネックレスを重ねづけするのが定番で、祭りではさらに豪華に飾ります。地方によっては銀貨や古いメダルを装飾に使う習慣もあり、家の格式や富を表す役割を持っています。頭飾りは花冠やスカーフが主流ですが、マラムレシュ地方では羽や金属飾りを組み込む独自の様式もあります。


ルーマニア男性の民族衣装

ルーマニアの男性民族衣装(ブコヴィナ・フラシンの民俗祭典)

ルーマニア男性の民族衣装
白い刺繍シャツに幅広い腰帯、帽子や羊毛ベストを合わせる装い。ブコヴィナ地方の祭礼で演奏とともに披露される。

出典: Photo by ShadowNighy / Wikimedia Commons CC BY-SA 4.0より


男性は白いシャツとズボンを基本に、刺繍入りのベストや腰帯で華やかさをプラスします。寒冷地では黒い羊毛の帽子毛皮の外套も取り入れられ、実用性と装飾性を両立。日常着は動きやすく簡素ですが、祭礼や舞踊用では刺繍や飾り紐を加えて華やかにします。


シャツとベスト

シャツはゆったりとした作りで、袖や襟元に刺繍が入ります。刺繍の模様や色は地域のアイデンティティを示す重要な要素です。ベストは黒や濃茶色が多く、縁取りや飾り紐で重厚感を演出します。冬季は厚手ウールで防寒性を高めたものもあります。


ズボンと帽子

ズボンは季節に応じた素材を使い分け、夏は麻布、冬はウールやフェルト製です。帽子は地域によって形状が異なり、山岳地帯では高さのあるフェルト帽、平原部では丸みのある毛糸帽が主流。祭礼では羽根や布飾りを加えて華やかにします。


ルーマニア民族衣装の歴史

ルーマニアの衣装は、古代ダキア人やローマ帝国時代の服装が直接的なルーツとされ、長い歴史の中で形を変えながら受け継がれてきました。中世には農民の作業着から発展し、丈夫で機能的でありながらも刺繍や色彩によって美しさを追求する服装へと進化します。各地域で独自に発展した刺繍文化が融合し、衣装そのものが人々の生活と信仰を映し出す存在となりました。19世紀には祝祭用の衣装として豪華な装飾が加えられ、単なる服ではなく地域アイデンティティを示す象徴として確立していったのです。民族衣装はルーマニア人の「歴史と誇り」を纏う存在だったのです


地域差と象徴性

モルドヴァ地方は赤と黒を基調とした力強い刺繍が特徴で、赤は生命や情熱、黒は大地の力強さを表し、繁栄や守護の意味が込められていました。


一方でトランシルヴァニア地方は青や緑の色彩を多用し、森や草原といった自然との調和を象徴します。模様には太陽や星、植物などが描かれ、魔除けや豊穣祈願の意味を持つなど、衣装そのものが「祈りのキャンバス」としての役割を担っていたのです。


現代での活用

現代では民俗舞踊や祝祭の場で民族衣装が華やかに着用され、文化的アイコンとして人々に親しまれています。


さらに「イー」と呼ばれる伝統的な刺繍シャツは、現代ファッションにも応用され、ドレスやブラウスとして若い世代にも人気。観光土産としては刺繍入りのクロスやバッグ、小物類が広く販売され、日常の中でも伝統を楽しめる工夫がなされています。こうして民族衣装はルーマニア文化を国内外に発信するシンボルとして、今も大切に受け継がれているのです。


こうして見ると、ルーマニアの民族衣装は、白の清楚さと刺繍の鮮やかさが共存する、伝統と個性がぎゅっと詰まった服なんです。