
グリーンランド東部の氷河台地
典型的なツンドラ気候域に位置し,短い夏と長い冬を特徴とする地域の氷河風景
出典:Photo by NASA Christy Hansen / Wikimedia Commons Public Domainより
ヨーロッパの東部から北部にかけて広がる広大な大地──そこにはステップ気候とツンドラ気候という、まったく異なる性格を持ったふたつの気候帯が存在します。どちらも「寒さ」や「乾燥」といったキーワードに関連しますが、その違いは想像以上に深く、そしてそれぞれの気候が育んできた文化や生活のかたちもまったく異なるのです。今回は、このふたつの気候の特徴と、それがヨーロッパ世界にもたらした影響を、歴史と地理の視点からわかりやすくかみ砕いて解説します。
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まずは、気候そのものの基本的な性質──とくに気温と降水量の観点から、両者の差を見てみましょう。
ステップ気候は、内陸部に多く分布していて夏は暑く、冬は非常に寒いという極端な寒暖差が特徴です。年間降水量は少なめで、乾燥しています。ヨーロッパではとくにウクライナ東部~カザフ草原にかけてこの気候が広がり、人々はこの気候に合わせて遊牧や牧畜中心の生活を築いてきました。
ツンドラ気候は夏でも10℃を超えないような冷涼な環境が特徴。冬は当然のように氷点下が続きます。ほとんど雪で降るような形ですが、実際の降水量自体はそれほど多くないのもポイント。ノルウェー北部やロシア北端など、ヨーロッパの北縁部に分布しています。
つづいて、地表を覆う植物や土壌──いわば景観の面から両者の違いを探ってみましょう。
ステップでは丈の低い草が一面に生い茂り、森林はほとんど見られません。これは乾燥と寒暖差に強い植物だけが生き残れる環境だから。人間にとっては牧草地として最適で、遊牧民による牧畜が栄えてきた背景でもあるのです。
ツンドラ気候の土地は永久凍土に覆われており、樹木は根を張れないために生えません。その代わり、夏の短い間だけコケ、地衣類、低木などが広がります。見渡す限りの原野が広がるこの風景は、厳しい自然と共生する民族文化を生んできました。
最後に、それぞれの気候のもとでどのような暮らしが営まれ、どんな文化が育まれてきたのか──ヨーロッパ世界に限定して見てみましょう。
ステップ気候のヨーロッパ地域では、フン族やマジャール人などが遊牧と騎馬文化を発展させました。彼らは馬に乗って移動しながら家畜を育て、戦闘にも強く、しばしば西ヨーロッパに衝撃を与えました。現在のハンガリー平原などにもその名残が色濃く残っています。
ツンドラ気候下では農耕も建築も厳しく、定住はむずかしいため、狩猟や漁撈を中心とした移動生活が主流になりました。ロシア北部のネネツ人やサーミ人といった少数民族たちは、トナカイの移動にあわせて暮らす文化を今も受け継いでいます。
ステップ気候とツンドラ気候──似ているようでまったく異なるこのふたつの環境は、それぞれに応じた人間の知恵と文化を育んできました。ヨーロッパの広大な地形と気候の多様性が、地域ごとに異なる歴史と暮らしのかたちを生み出してきたのです。
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