
ヨーロッパにおける総降水量分布
西岸海洋性気候域を含むヨーロッパで,降水量が地域によって多様に分布する様子を示す地図。
色の濃い緑〜青のエリアは降水量の多い地域を表し,逆に黄色〜茶色は乾燥傾向の地域。
出典:NOAA Climate Prediction Center / Wikimedia Commons Public domainより
ヨーロッパの西側──イギリスやオランダ、フランス西部などを中心に分布する西岸海洋性気候。この地域の大きな特徴のひとつが、「年間を通じて雨がよく降る」ということ。しかも、どの季節にも満遍なくしとしとと……。では、どうしてこの気候ではこんなに降水量が多いのでしょうか?その理由を、3つの角度から見ていきましょう。
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まずは、地域全体の気候を形づくる最大の要因である大西洋の影響から見ていきましょう。
広大な大西洋は、常に水蒸気を空に送り続ける“蒸発マシン”のような存在です。太陽の熱で温められた海面から水が蒸発し、湿った空気が空中にたっぷりと漂う──その空気が西風に乗ってヨーロッパに押し寄せてくるわけです。
加えて、北大西洋海流という暖かい海流も、この地域に届いています。これが空気をさらに温め、水蒸気の含有量を増やすので、空気が湿っぽくなりやすい。結果、雲ができやすく、雨も降りやすくなるのです。
次に、空の動きを見てみましょう。この気候の“雨づくり職人”が偏西風です。
ヨーロッパ中緯度に吹く偏西風は、西から東へと空気を流し続ける強い風。この風が、大西洋からの湿った空気をどんどん運び、ヨーロッパ西岸で次々に雲と雨を発生させるんです。
さらに偏西風は移動性低気圧もセットで運んできます。低気圧の通過時には上昇気流が生じて空気が冷やされ、雨雲が発達。これが何度も繰り返されるため、西岸海洋性気候では「しょっちゅう雨が降る」という印象につながるんですね。
最後に、地面の話。じつは地形もまた、降水の多さに深く関わっているんです。
ヨーロッパ西岸には、アルプスやピレネーのような高い山が少なく、低くて広がった平地が多いのが特徴。このため、湿った空気が内陸までスムーズに入り込み、広い範囲にわたって雨を降らせることができるんです。
一部の地域、たとえばイギリスの湖水地方やフランスのブルターニュ地方などでは、地形性降雨と呼ばれる現象も見られます。これは、湿った空気が丘やなだらかな山にぶつかって上昇し、冷やされて雨になる現象。湿気が逃げにくい分、降水量が増えやすくなるんですね。
西岸海洋性気候の降水量が多いのは、大西洋の潤い、偏西風の運搬力、そして地形の受け皿としてのやさしさ──この三つのコンビネーションが見事にかみ合っているからなんです。ただの「雨が多い地域」ではなく、ちゃんと理屈があるんですね。
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