ヨーロッパで台風やハリケーンが少ない理由

 

ヨーロッパにおいて、日本の台風やアメリカのハリケーンのような暴風雨は極めて希少です。もちろん、全くないというわけではありませんが、地理的にヨーロッパまで到達するほどの強力な台風やハリケーンが発生することは、ほぼありません。本記事ではその理由について詳しく解説していきます。

 

 

台風とは

台風とは、主に熱帯地域で発生する強力な低気圧のことを指します。特に赤道付近の海域で、海面からの強い蒸発により形成される巨大な雲が発達し、次第に回転を伴った大規模な嵐となるのです。この回転運動は、地球の自転による「コリオリの力」が影響しており、北半球では反時計回り、南半球では時計回りに渦を巻く特徴を持っています。台風は、強風や豪雨を伴い、広範囲にわたって洪水や土砂災害を引き起こすことがあり、その破壊力は甚大です。これに加えて、台風の進行方向にある地域では、強風により建物が倒壊したり、船舶が座礁したりするなど、自然災害としての脅威は計り知れないものがあります。

 

ヨーロッパで台風が発生しない理由

結論からいえば、「台風がヨーロッパまでたどり着くことができないから」というのが主な理由です。上述した通り、台風は、熱帯の海の上、特に日射量の多い赤道付近の海で生まれます。太陽の熱によって海面の水が蒸発し、これが空高くまで昇って冷却されると、大きな雲が形成されます。この雲がやがて巨大化し、熱帯性低気圧、そして台風へと発展するのです。逆にいえば、台風は熱帯地域から離れるほど、つまり高緯度に向かうほど、その勢力を維持するために必要なエネルギーを失ってしまうのです。これは、熱帯から遠ざかるにつれて、太陽からのエネルギーが減少し、海面温度も低下するため、台風を動かす力が徐々に弱まることが原因です。そのため、ヨーロッパのような高緯度の地域には、台風が到達することは極めて稀であり、発生すること自体も非常に困難なのです。

 

ヨーロッパ周辺の海域の水温も低く、台風が発生するための条件が整わないことも要因の一つです。

 

台風級の気象災害は存在

ヨーロッパでは、台風が直接発生することはありませんが、それに匹敵するほどの暴風や嵐が発生し、甚大な被害をもたらすことがあります。これらの気象現象は、特に冬季に頻繁に見られるもので、極端な場合には「サイクロン」とも呼ばれることがあります。ヨーロッパにおけるこれらの暴風は、主に大西洋からやってくる強力な低気圧によって引き起こされます。これらの低気圧が発達すると、非常に強い風が吹き荒れ、場合によっては洪水や大規模な停電を引き起こすこともあるのです。このような暴風は、建物の破損や倒木、交通機関の麻痺など、社会生活に多大な影響を及ぼすことがあります。以下は、これまでヨーロッパで発生した代表的な気象災害の事例です。

 

暴風キリル(2007年1月発生)

2007年1月、ヨーロッパを襲った暴風「キリル( Kyrill )」は、その猛威により大規模な被害をもたらしました。特にイギリス、ドイツ、チェコなどで深刻な影響が報告され、多くの国々で少なくとも44人が犠牲となりました。この暴風はヨーロッパ全体に広がり、特にイギリスとドイツでは数百万人が停電に見舞われる事態となりました。キリルの風速は最大で225 km/hに達し、広範囲で交通が麻痺しました。例えば、ドイツではすべての長距離列車が運行停止となり、航空便もキャンセルされるなど、社会生活に大きな影響を与えました。この暴風は北大西洋で急速に発達した低気圧に起因し、その強風と豪雨は広範囲にわたり、各地で倒木や建物の損壊が相次ぎました。自然の猛威がヨーロッパ全体に深刻な影響を与えた一例といえるでしょう。

 

キリルの映像

 

暴風エマ(2008年3月発生)

2008年3月にヨーロッパ中部で発生したハリケーン級の暴風雨「エマ(Emma)」は、その猛威により13人が亡くなるという悲劇をもたらしました。この暴風は、特にドイツやオーストリアなどの地域で大きな被害を与え、家屋の屋根が吹き飛ばされる、樹木が倒れるといった災害を引き起こしました。また、交通網も麻痺し、道路や鉄道が寸断されるなど、広範囲にわたって影響が及びました。同年10月には、スカンディナヴィア半島やイギリスでも激しい暴風が発生し、多くの倒木や建物の損壊が報告されました。この暴風は、デンマーク付近で非常に発達した低気圧が原因であり、風速は記録的なものとなり、多くの地域で日常生活が一時停止せざるを得ない状況に陥りました。

 

2013年デンマークを襲った暴風雨の動画。倒木どころか街の標識は折れ曲がり、自転車は吹き飛び、工事中の建物は半壊しています。

 

暴風シアラ(2020年2月発生)

2020年2月に発生した暴風「シアラ(Ciara)」は、ヨーロッパ全体に広がり、多くの国で深刻な被害をもたらしました。特にイギリスやフランス、ドイツ、オランダなどで強風と豪雨が記録され、洪水や大規模な停電が発生しました。イギリスでは、風速が最大で120 km/hを超え、多くの地域で建物の損壊や樹木の倒壊が発生しました。また、フランスやドイツでも同様の被害が報告され、交通網が麻痺する事態となりました。この暴風は北大西洋から移動してきた低気圧により発生し、その影響は広範囲に及びました。ヨーロッパ全体で避難が相次ぎ、インフラが大きく損壊した例として記憶されています。

 

シアラの映像

 

ヨーロッパにおける暴風対策

ヨーロッパ各国では、頻発する暴風への対策が進められており、その重要性がますます高まっています。例えば、北ヨーロッパの国々では、強風や高潮に備えた防波堤の建設が進められており、特にオランダでは歴史的に海抜が低い地域が多いため、防潮堤の整備が非常に厳重に行われています。また、イギリスやフランスなどの国々でも、気象予報の精度を向上させ、暴風が予想される際には早期の警戒体制が敷かれ、住民に対して避難勧告が迅速に発令されるような体制が整備されています。

 

さらに、建築基準の見直しも進んでおり、特に沿岸部や風の強い地域では、耐風設計が強化されています。これは、過去の暴風災害から学んだ教訓を生かし、建物が暴風によって破壊されるリスクを減らすための取り組みです。特に、高層ビルや公共施設については、風圧に耐えるための構造や素材の使用が義務付けられることが多くなっています。また、個人レベルでも、防風対策が推奨されており、窓の補強や屋外物の固定などが行われています。これらの対策は、自然災害による被害を最小限に抑えるための重要な手段とされています。

 

まとめ

ヨーロッパでは、日本やアメリカのような台風やハリケーンはほとんど発生しませんが、それに匹敵する暴風や嵐が頻繁に発生し、甚大な被害をもたらすことがあります。これらの自然災害は、主に大西洋からやってくる低気圧が原因であり、その影響は広範囲に及びます。ヨーロッパ各国では、これらの暴風に対する対策が進められており、気象予報の精度向上や防波堤の建設、建築基準の見直しなど、多角的なアプローチが取られています。これらの対策により、被害の軽減が期待される一方で、自然の猛威に対する警戒を怠らないことが何よりも重要なのです。