
ヨーロッパの気候が意外と穏やかで、しかも冬でも暮らしやすい地域が多い──この背景には「海流」の存在があるってご存じでしたか?とくに大西洋から流れ込んでくる暖かい海流たちは、ヨーロッパ全体の気温や湿度にじわじわと影響を与えてきました。中でもカギになるのが「北赤道海流」「メキシコ湾流」「北大西洋海流」の3つ。これらのつながりを理解することで、なぜヨーロッパがあたたかく、そして文化的に豊かになったのかが見えてきます。今回はこの3つの暖流のルートとその効果を中心に、気候と地理のつながりを紐解いていきましょう。
|
|
|
|
まずはヨーロッパにあたたかさを届ける3つの暖流が、どこからどこへ流れているのかを整理してみましょう。
大西洋の赤道付近で、東から西に向かって流れる北赤道海流。この流れは、アフリカ西岸から出発してカリブ海方面へと向かいます。言ってみれば、すべての始まりがここなんですね。この流れがメキシコ湾にたどり着くことで、次の海流へバトンタッチされます。
北赤道海流の続きとして、カリブ海からアメリカ南東部をかすめて流れるメキシコ湾流(ガルフストリーム)。この海流はとにかくパワフルで高温多湿。フロリダ沖を北上しながら大西洋中央部へと向かい、さらにヨーロッパ方面へ熱を届けていきます。
そしてメキシコ湾流が北上した先に生まれるのが北大西洋海流。これはイギリスやノルウェー沿岸をなぞるように流れ、ヨーロッパ西岸をあたたかく包み込む役割を果たしています。冬のロンドンやパリがそこまで極端に冷え込まないのは、この海流のおかげなんです。
では、この3つの暖流がヨーロッパの気候にどんな変化をもたらしているのか、具体的に見ていきましょう。
ヨーロッパの西側──たとえばフランス、イギリス、ドイツ西部など──は、本来ならカナダ並みに寒くなってもおかしくない緯度にあります。でも、北大西洋海流が海水と空気をあたためてくれるおかげで、冬の最低気温がそこまで下がらないんです。だから人の暮らしやすさにもつながっているわけですね。
暖流が運ぶ空気には水蒸気がたっぷり含まれているため、偏西風によってこれが内陸部に流れ込むと、ほどよい雨をもたらしてくれます。イギリスが「霧と雨の国」と言われるのも、まさにこの海流の湿気が関係しているんですよ。
気候が安定すれば、そこから生まれる文化や産業にも深い影響が出てきます。最後は、暖流による“間接的な恩恵”を見ていきましょう。
湿気とあたたかさのバランスがちょうどいいヨーロッパ西部は、発酵食品や酪農が育ちやすい環境でもあります。チーズやワイン、ビールといった食品がこの地域で盛んなのは、気候が作り出した偶然じゃなくて、暖流と風の合作なんです。
暖流のおかげで冬でも港が凍らず、年間を通じて航海が可能な場所が多いヨーロッパ西岸。だからリヴァプールやロッテルダムなどの港湾都市が発展し、ヨーロッパの海上交易を支えてきたんですね。
このように、北赤道海流・メキシコ湾流・北大西洋海流という3つの暖流がタッグを組んで、ヨーロッパの気候をあたたかく保ち、文化や暮らしにまで深い影響を与えてきたのです。海が生み出すこの「見えないインフラ」が、ヨーロッパの風土を形づくってきたんですね。
|
|
|
|