「ヨーロッパ」という地域区分は、文化的な地域概念であるところも大きいので、絶対的・学術的統一基準がありません。中でも特に分類が微妙な国が、ボスポラス海峡(アジアとヨーロッパの境界とされる)に国土がまたがっているトルコです。どういうこと?と思われるかもしれませんが、百聞は一見にしかずで、まずはトルコの位置を地図で確認してみましょう。
トルコはヨーロッパとアジアの境界に位置する国で、その地理的な位置は非常に特異です。国土の大部分はアナトリア半島にある一方、小さな領域はバルカン半島の東端に位置。黒海、エーゲ海、地中海に囲まれており、東はジョージア、アルメニア、アゼルバイジャン、イラン、南はイラク、シリアと国境を接しています。また、国土を通るボスポラス海峡とダーダネルス海峡が、アジアとヨーロッパの境界をなしていることからも、トルコは東西の文化が交差する「交通の要衝」とされています。
トルコの地政学的分類としては、ヨーロッパに属するという説と、アジアに属するという説が両方あります。以下両説の根拠です。
一般的にボスボラス海峡の西がヨーロッパ、東がアジアとされていますが、トルコの国土の大半は東側のアジア領域に属していることがわかると思います。トルコのヨーロッパ領域は全体の5%に過ぎず、地理的には「アジアの国」としたほうが説得力がありそうです。
宗教もイスラム教で、9割がアジア人であり、地理的にも国土のほとんどはアジアに属していることから、「トルコはアジア」とする見方が一般に支持されています。日本の公式見解でもトルコはアジアの国(中東の国)と分類していますから、学校など公的機関で回答を求められた際は、政府の公式見解を引用して「アジアの国である」と答えるのが無難ではあるでしょう。
一方でトルコは、政治経済においてヨーロッパの影響が強い国でもあります。トルコ政府は公式見解で自国をヨーロッパの国としており、他国の認識との乖離があるのです。
確かに
であったりと、国家自体は明らかにヨーロッパ志向なのです。
自国がアジアなのかヨーロッパなのか。アイデンティティのジレンマはトルコという国家を悩ませていますが、最終的に分類がどう確定するのかは、欧州連合(EU)加盟を実現させられるか否かが分かれ目になりそうです。
しかしトルコの人権状況、宗教、歴史背景※などを理由に反対するEU加盟国がいる上、国内の反発もあります。そう簡単には結論が出ないでしょう。これについては【トルコがEUに加盟できない理由とは?】もご参照ください。
※トルコの前身がヨーロッパ諸国と敵対していたオスマン帝国であることや、キリスト教圏のヨーロッパに、99%がイスラム教徒のトルコが加わることへの反発など。トルコの歴史については【トルコの歴史年表】を参照のこと。
トルコがアジアとヨーロッパのどちらに属するかという議論は、単なる地理的な分類以上の意味を持っています。この問題を深く考えることは、国際関係やアイデンティティ、文化の複雑な交差点を理解するための重要な手がかりとなります。
この問題は、「国とは何か」「文化とは何か」という基本的な問いに結びついています。トルコは歴史を通じて、東西の文化を融合させる独自の役割を果たしてきました。オスマン帝国時代には、アジアとヨーロッパの文化的・経済的な橋渡し役を果たし、多様な文化が共存しながらも独自のアイデンティティを築いてきました。このような歴史的背景を考えると、トルコがどちらに属するかという問題は、トルコ自身のアイデンティティに深く関わるものです。
トルコの地政学的な位置は、現代の国際政治においても重要な意味を持っています。トルコがどちらの地域に分類されるかは、NATOやEUなどの国際機関における役割や、中東問題への関与の仕方にも影響を与える可能性があります。特にEU加盟問題において、トルコがヨーロッパに属するか否かという議論は、単に国境線の問題に留まらず、ヨーロッパという概念自体の再定義をも提起しているのです。
この問題を考えることは、現代のグローバル化社会において、国家や地域の境界がいかに流動的であるかを理解する助けにもなります。トルコが直面するアイデンティティのジレンマは、他の多くの国々や地域でも見られる問題であり、これを理解することは、現代の複雑な国際社会を読み解くための鍵となるでしょう。
トルコがどちらに属するかという議論は、国内においても国民の自己認識や政治的選択に大きな影響を与えています。この問題は単なる学術的なテーマに留まらず、トルコの未来を左右する重要な議論なのです。トルコがこれからどのような方向に進むべきか、国際社会がトルコとどう向き合うべきかを考える際には、この問題を理解することが不可欠です。
このように、トルコがアジアとヨーロッパのどちらに属するかという問題は、単なる地域の分類以上の意義を持っています。これは、国際関係、文化、アイデンティティの理解において重要な問いかけを含んでおり、トルコや国際社会の未来を考える上で欠かせない視点を与えてくれるのです。
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