
ビザンツの幻影を継ぎながら、
専制という現実を育てた幼き帝国だった。
─ ロシア史研究者・ジェフリー・ホスマー(1904 - 1983)
ロシア・ツァーリ国とは、1547年、モスクワ大公国のイヴァン四世が「ツァーリ(皇帝)」の称号を称したことで成立した国家です。この時点での皇帝位はあくまで自称であり、国際的承認を受けたわけではありませんでしたが、18世紀に名実ともに「帝国」となり、1721年ピョートル1世の宣言によりロシア帝国に昇格しています。
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16世紀初め、モスクワ大公国が北東ロシアの統一を成し遂げ、1547年、雷帝イヴァン4世(在位1533~84年)が全ロシアの「ツァーリ(皇帝)」を称したことで成立しました。
「ツァーリ」とは
「ツァーリ(皇帝)」というのは、古代ローマの専制君主「カエサル」に由来する称号であり、この言葉を国号に付すというのは、ローマ帝国の後継国(第三のローマ)を名乗ることを意味しています。つまりモスクワ大公国は、キリスト教の正統派である正教会から、東ヨーロッパにおける唯一の皇帝だと認められたことを根拠に、自国の権威付けを行ったのです。なおこの称号を初めて使用したのはイヴァン三世ですが、正式にツァーリとして戴冠を行ない、この称号を使い外交交渉まで行ったのはイヴァン四世が初めてでした。
「ツァーリ」には「皇帝」という意味もありますので、日本では「ロシア・ツァーリ国」という国号はあまり使われず、たんに「ロシア」、もしくは「ロシア帝国」と書かれることが多いです。しかし1721年に創始したロシア帝国君主の称号は「皇帝(インペラトル)」。ロシア語において「ツァーリ」と「インペラトル」は同じ「皇帝」という意味でも、後者には「カエサルの後継者」という意味はなく、あくまで君臨者としての役割的称号であるという違いがあるのです。
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