ヨーロッパの宗教

ヨーロッパの宗教史

ヨーロッパにおいて宗教は、地域の政治、社会、文化の発展に大きな影響を与えてきました。古代の多神教社会から、キリスト教の台頭とそれによる文化的変革、中世におけるカトリック教会の圧倒的な影響力、宗教改革によるカトリックとプロテスタントの対立、さらには世俗化と宗教多様性の拡大に至るまで、ヨーロッパの歴史は宗教と密接に結びついているのです。当カテゴリーでは宗教がヨーロッパ社会にどのように作用し、時には大きな対立や変革を引き起こしてきたのか、その長い歴史を辿っていきます。

 

 

宗教とは

大前提として、宗教(英: religion)とは、人知の及ばない超自然的な存在を敬い崇める思想・観念のことです。科学技術や社会の成熟では克服できない恐怖(「病」「死」など)に耐えるため、人に「人生の指標」と「生きる力」をくれるもの、ともいえ、古代から現代にいたるまでその存在は、人類の政治や社会、文化に多大な影響をおよぼしてきました。なお太古において宗教と政治はほぼ一体化しており、今日では当たり前の政教分離というのは、近代ヨーロッパで信仰の自由とともに確立され、世界に拡散された考え方です。

 

ヨーロッパで主流な宗教

ヨーロッパといえばキリスト教圏といっていいほど圧倒的にキリスト教が支配的で、大航海時代以降のヨーロッパ諸国の世界進出によって、ヨーロッパの枠内から飛び出て世界中の人々に信仰されるようになりました。このような世界中に信者を抱える宗教を世界宗教といい、ヨーロッパで二番目に信者が多いイスラム教や日本で優勢な仏教も世界宗教の一つです。世界宗教の他には、特定の民族・地域で信仰される民族宗教ユダヤ教など)、比較的新しく生まれた新宗教などの分類があります。

 

現代の宗教多様性

現代のヨーロッパでは、カトリック、正教、プロテスタントをはじめ、様々なキリスト教の教派が共存しています。また移民の増加に伴い、イスラム教やヒンドゥー教、仏教など多様な宗教がヨーロッパで信仰されるようになりました。新興宗教も少なくなく、今後ヨーロッパの宗教的多様性はますます高まっていくものと予測されます。

 

古代ヨーロッパの宗教

古代ヨーロッパの宗教は、多神教を中心に発展し、ギリシャやローマでは神々が日常生活や政治に深く関わっていました。神々への崇拝や儀式は社会統治や共同体の結束に重要な役割を果たし、都市ごとに独自の神を祀る習慣も見られました。特にローマでは、征服地の宗教を取り入れ、文化の多様性を広げる一方で、後にキリスト教が登場し、古代宗教の風景を大きく変えることとなるのです。

 

ギリシア神話信仰

古代ギリシャには、ゼウスやアテナ、アポロンといった数多くの神々が信仰されていました。これらの神々は自然現象や人間の感情、生活の様々な面を司っており、神殿や祭りを通じて崇拝されました。

 

詳しくはギリシア神話の章をご覧ください。

 

ローマ神話信仰

古代ローマもまた、ギリシャの神々を取り入れつつ、独自の神々を持っていました。しかし、帝国が拡大するにつれてキリスト教が伝播し、4世紀には公認され、後のビザンツ帝国では国教となりました。

 

詳しくはローマ神話の章をご覧ください

 

中世ヨーロッパ以降の宗教

中世ヨーロッパでは、キリスト教が社会や政治の中心的役割を担い、カトリック教会が強大な権威を誇りました。教会は人々の日常生活を支配し、国王や貴族も教会の影響下に置かれていたのです。また、十字軍異端審問など、宗教的対立や改革運動が頻発し、宗教は国家間の戦争や内部の政治闘争にも深く関わります。この時代、信仰は個人と社会の価値観を大きく形作り、後の宗教改革へと繋がっていくわけですね。

 

さらに中世ヨーロッパにおける宗教は、キリスト教だけでなく、イスラム教ユダヤ教との相互作用が重要な要素でした。特に、イベリア半島ではイスラム教徒の支配下にあった地域で、イスラム教、ユダヤ教、キリスト教の共存が見られました。この文化的な交差点では、哲学や科学の発展が促進され、ユダヤ人やイスラム学者がギリシャ・ローマの知識を保存・発展させたのです。しかし、同時に宗教的な緊張も存在し、十字軍やレコンキスタ(国土回復運動)ではイスラム教徒との対立が深まり、ユダヤ人への迫害も強化されていきました。

 

キリスト教

中世のヨーロッパでは、キリスト教が主要な宗教として定着。しかし、教義の違いからカトリックと正教会に分かれ、さらに宗教改革を経てプロテスタントが登場しました。

 

詳しくはキリスト教の章をご覧ください

 

イスラム教

7世紀以降、イスラム教徒のウマイヤ朝やアッバース朝がヨーロッパ南部を征服。スペインやシチリアではイスラム文化や学問が栄えました。

 

ユダヤ教

ユダヤ教はキリスト教よりも古いルーツを持ち、ヨーロッパの経済や文化に大きな影響を与えました。迫害や追放を経験しつつも、ユダヤ人コミュニティは粘り強く存続し、ヨーロッパ各地で独自の文化を築き上げています。

 

詳しくはユダヤ教の章をご覧ください

 

近代以降の宗教

近代以降も様々な新興宗教が誕生しました。これらの新しい宗教運動は、社会的変化や既存宗教に対する不満、精神的ニーズの多様化から生まれたものが多くあります。いくつかの代表的な新興宗教を紹介します。

 

モルモン教

創立年:1830年
創始者:ジョセフ・スミス

 

アメリカで創始されたモルモン教は、キリスト教の一派でありつつも、独自の啓示と聖典『モルモン書』を持っています。19世紀の宗教的復興運動(第二次大覚醒)と深く結びついており、ユタ州を中心に拡大しました。その後ヨーロッパでも、特に19世紀中頃から宣教師が派遣され、徐々に信者を増やしてきました。

 

エホバの証人

創立年:1870年代
創始者:チャールズ・テイズ・ラッセル

 

聖書を厳密に解釈し、伝統的キリスト教と異なる教義を展開しました。特に世俗の政府や祝祭日に関する中立的立場、そして終末論的な信念が特徴的です。20世紀初頭にはヨーロッパにも進出し、現在、ヨーロッパ全体で数百万人の信者がおり、特にポーランド、イタリア、スペイン、フランス、ドイツなどで大規模なコミュニティを形成しています。

 

アンブロシアス教会

創立年:1910年代
創始者:ギリシャ正教の司祭から派生

 

ギリシャの伝統的正教会の流れを汲みながらも、個人的な祈りや啓示を重視し、神秘主義的要素を強めた宗教運動です。

 

ラエリアン・ムーブメント

創立年:1970年代
創始者:ラエル(クロード・ボリロン)

 

フランスで始まったこの運動は、宇宙人(エロヒム)が地球の人間を創造したという教えを信じています。科学技術の進歩を重視し、従来の宗教とは異なるアプローチを取るのが特徴です。