ヨーロッパ大陸はユーラシア大陸の一部を形成する半島で、周囲を大小様々な海に囲まれています。先史時代より、ヨーロッパ人にとって、海とは重要な交易路であり、多くの国々は海運を背景に様々な物資をやり取りすることで発展してきました。それぞれの海域が持つ独自の特徴と、沿岸国々との関わりを探ることは、ヨーロッパ史を理解する上で不可欠です。
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面積:約106,460,000平方キロメートル
平均水深:約3,646メートル
最大水深:プエルトリコ海溝で約8,376メートル
滞留時間:約500年
沿岸国:北アメリカ、南アメリカ、ヨーロッパ、アフリカ
島の数:数百(大きなものとしてはグリーンランドを含む)
主な島:グリーンランド、カナリア諸島、カーボベルデ、アゾレス諸島
大西洋は、ヨーロッパに西側に広大に広がる海です。大西洋から流れる暖流によってヨーロッパは高緯度にもかかわらず温暖な気候となっています。古代よりヨーロッパ近海では沿岸交易が行なわれ、商業航路となりました。大航海時代になると大西洋経由で、アジアへの進出が始まり、アジア植民地時代の幕開けとなりました。
大西洋の沿岸に位置する国々、特にポルトガル、スペイン、フランス、イギリスなどは、海洋に面した地理的利点を活かし、大航海時代には世界各地への探検と植民地化を推進しました。これらの国々の海洋進出は、世界史における新たな時代の幕開けを意味し、ヨーロッパの経済と文化に大きな変化をもたらしました。
大西洋の伝承
大西洋は、特に「アトランティス」という伝説の失われた大陸の物語で有名です。プラトンによって最初に記述されたこの物語では、アトランティスは高度な文明を持つ島であり、一夜にして海に沈んだとされています。この伝説は、多くの探検家や研究者の想像力をかき立ててきました。
面積:約250万平方キロメートル
平均水深:約1,500メートル
最大水深:カリプソ深海で約5,267メートル
沿岸のヨーロッパ国:スペイン、フランス、モナコ、イタリア、スロベニア、クロアチア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、モンテネグロ、アルバニア、ギリシャ、トルコ
島の数:約10,000以上
主な島:シチリア島、サルデーニャ島、キプロス島、クレタ島、バレアレス諸島
地中海は、ヨーロッパ大陸とアフリカ大陸に挟まれている海です。古代ローマ帝国やビザンチン帝国のような強力な帝国の発展を支えた海であり、近世になり交易の中心が大西洋および北海に移るまで、ヨーロッパにおける商業と文化交流の中心でした。地中海沿岸の国々、特にイタリアやギリシャは、地中海を通じての貿易で栄え、地中海文明としての独自の文化を築き上げてきました。
地中海の伝承
地中海は古代ギリシャ神話やローマ神話において中心的な役割を果たしています。特に有名なのは、オデュッセウスの冒険の物語で、彼と彼の仲間たちが地中海を航海しながらさまざまな怪物や神々と遭遇する様子が描かれています。
面積:約215,000平方キロメートル
平均水深:約350メートル
最大水深:約3,543メートル(カリプソ深海)
沿岸のヨーロッパ国:ギリシャ、トルコ
島の数:約2,000 - 3,000
主な島:クレタ島、ロードス島、レスボス島、ヒオス島
エーゲ海は、地中海の一部を構成する海域で、西と北をギリシアのあるバルカン半島、東をトルコのあるアナトリア半島に囲まれています。そんなエーゲ海は、古代ギリシアの発展に不可欠な役割を果たしました。ギリシャ諸島間の交易と文化交流が、エーゲ海を通じて活発に行われ、特にアテナイのような都市国家は海洋貿易によって繁栄し、様々なヨーロッパ文化の起源を創出したのです。また、トロイ戦争の伝説など、エーゲ海は多くの神話と歴史の物語にも登場します。
エーゲ海の伝承
エーゲ海には、イカロスの伝説が残っています。この物語において、イカロスと彼の父ダイダロスは、羽を使って脱出を試みますが、イカロスは高く飛びすぎて太陽に近づき過ぎ、羽が溶けて海に落ち死んでしまいます。そのため、エーゲ海の一部はイカロスの名を冠しています。
面積:約436,000平方キロメートル
平均水深:約1,253メートル
最大水深:約2,212メートル
沿岸のヨーロッパ国:ブルガリア、ルーマニア、ウクライナ、ロシア、ジョージア、トルコ
黒海は、ヨーロッパとアジアの間にある内海です。沿岸都市のイスタンブールは人口1300万を抱え、ヨーロッパ有数の大都市圏として知られます。東ヨーロッパとアジアの間の文化的な交差点として重要な役割を果たしてきました。この地域は、多様な民族や文化が交錯する場となり、商業、交易、戦略的な重要性を帯びています。そのため歴史上、常に勢力争いの場となり、黒海沿岸の多くの都市や港は、歴史の中で様々な帝国の興亡を見ているのです。
黒海の伝承
黒海は、ギリシャ神話において「黄泉の国への入り口」とされていました。また、ジェイソンとアルゴナウタイが黄金の羊毛を求めて航海した物語も黒海を舞台にしています。
面積:約371,000平方キロメートル
平均水深:187m
最大水深:約1,025メートル
沿岸のヨーロッパ国:ロシア、アゼルバイジャン
主な島:グルジャリ・アダシ島、チェチェン島
カスピ海は、東ヨーロッパと中央アジアの境界にある塩湖です。「海」と呼称されていますが、定義上は湖であり、湖の大きさとしては世界最大です。そんなカスピ海は、ヨーロッパとアジアを繋ぐ重要な交易路としての役割を担ってきました。この地域は、古代から中世、そして近代に至るまで、東西貿易の中心地であり、油田などの資源に富んでいることから、経済的な重要性も持っています。カスピ海沿岸の国々は、歴史を通じて様々な文化的、経済的影響を受けてきたのです。
カスピ海の伝承
カスピ海には、古代から多くの文化がこの地域の豊かな自然資源に惹かれたという伝承があります。ペルシャの伝説では、この海は神秘的な存在が宿る場所とされています。
面積:約438,000平方キロメートル
平均水深:490メートル
最大水深:2,211メートル
主な島:ダフラク諸島、ファラサン諸島、カマラン島
紅海はアフリカ東北部とアラビア半島に挟まれた湾で、本来ヨーロッパとの繋がりはありませんでしたが、スエズ運河の開設により、地中海と繋がったことで、ヨーロッパとのルートが開けました。以降、ヨーロッパとアジアを結ぶ重要な海上ルートの一つとなりました。このルートは、ヨーロッパとインド洋地域との間の貿易と文化交流に大きな役割を果たし、特に19世紀から20世紀にかけて、植民地主義と帝国主義の時代においては、戦略的な重要性を持っていたのです。
紅海の伝承
紅海は、モーセがイスラエルの民を率いてエジプトから脱出する際、紅海を割って通り抜けたという旧約聖書の物語で有名です。この奇跡的な出来事は「紅海の分割」として知られ、キリスト教、ユダヤ教、イスラム教の文化において重要な役割を果たしています。
面積:約377,000平方キロメートル
平均水深:約55メートル
最大水深:約459メートル
沿岸のヨーロッパ国:デンマーク、エストニア、フィンランド、ドイツ、ラトビア、リトアニア、ポーランド、ロシア、スウェーデン
主な島:ゴトランド島、オーランド諸島、サーレマー島
バルト海は、北ヨーロッパの国々、特にスウェーデン、フィンランド、デンマーク、ロシアといった国々の経済と文化に深く関わっています。この地域は、古代からの豊かな海上貿易の歴史を持ち、特にハンザ同盟の時代には、バルト海はヨーロッパの主要な交易路として機能しました。バルト海はその戦略的重要性から、多くの歴史的な戦争や紛争の舞台になってきたのです。
ちなみにバルト海は平均水深約55メートルと、他の多くの海域に比べてかなり浅い部類に入ります。この浅さはバルト海が若い海であり、最終氷期後に形成されたことが背景にあります。そのため、深海底や深い海溝が少なく、全体的に浅い海底が特徴です。
バルト海の伝承
バルト海には多くのヴァイキングの伝承が存在しており、この海域がヴァイキングの貿易ルートの中心であったことが語られています。また、バルト海は幽霊船の伝説である「フライング・ダッチマン」の物語とも関連があります。この船は永遠に海をさまよい続けるとされています。
ヨーロッパの歴史と文化にとって、海はただの地理的特徴以上のものです。大西洋、地中海、エーゲ海、黒海、カスピ海、紅海、そしてバルト海など、これらの海域は古代から現代に至るまで、ヨーロッパの文明を形作る上で重要な役割を担ってきました。海運を通じた貿易、文化交流、戦略的要素など、これらの海域はヨーロッパの経済と文化の発展に欠かせない要素として機能してきたのです。この記事を通じて、それぞれの海域がヨーロッパの各国とどのように関わり、歴史を形作ってきたかを理解することで、ヨーロッパ大陸の豊かな歴史と文化の深さをより深く感じ取ることができるでしょう。
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