ヨーロッパの「西欧」と「東欧」の境界については、国や機関によって解釈が異なります。ここでは国際連合とワールドファクトブック、および歴史・文化解釈に基づいた西欧・東欧区分について紹介しています。
西欧と東欧の定義は、歴史的、文化的、政治的な要因によって異なり、その境界は立場や視点によって変わります。以下に、一般的な認識をまとめます。
西欧は、伝統的にヨーロッパの西側に位置し、ローマ帝国の西部領域やキリスト教のカトリック教会の影響を強く受けた地域です。産業革命や近代化が早く進んだことも特徴です。西欧の国々は、一般的に民主主義や資本主義を早期に採用し、冷戦時代には「西側諸国」としてアメリカとの同盟関係を持ちました。
一般的に含まれる国
イギリス、フランス、ドイツ、オランダ、ベルギー、ルクセンブルク、オーストリア、スイス、モナコ、リヒテンシュタイン、スペイン、ポルトガル、イタリア、アイルランドなど。
東欧は、ヨーロッパの東部に位置し、ローマ帝国の東部領域や東方正教会の影響を受けた地域です。多くの東欧諸国は、20世紀にソビエト連邦の影響下に入り、共産主義体制を経験しました。冷戦時代には「東側諸国」として、西側諸国と対立する陣営に属していました。
一般的に含まれる国
ポーランド、チェコ、スロバキア、ハンガリー、ルーマニア、ブルガリア、ウクライナ、ベラルーシ、モルドバ、ロシア、バルト三国(エストニア、ラトビア、リトアニア)、バルカン諸国など。
冷戦終結後、欧州連合(EU)への加盟が進む中で、西欧と東欧の境界は曖昧になりつつあります。例えば、チェコやポーランドなどは現在、EUの一員として「中央ヨーロッパ」とも位置付けられることがあり、西欧との結びつきが強まっています。同様に、バルト三国も文化的には東欧とされることが多いですが、地理的には北欧や中央ヨーロッパに含まれる場合もあります。
国際連合によるヨーロッパ地域の4分類では、ヨーロッパの西欧・東欧・北欧・南欧は以下のような区分けになっています。
水色:西欧諸国 オレンジ色:東欧諸国 緑色:南欧諸国 青色:北欧諸国
国連基準での東欧諸国には、ウクライナ、スロバキア、チェコ、ハンガリー、ブルガリア、ベラルーシ、ポーランド、モルドバ、ルーマニア、ロシアが含まれます。これらの国々は歴史的にオスマン帝国、オーストリア・ハンガリー帝国、ロシア帝国、そしてソビエト連邦の影響を受けてきました。20世紀後半には、多くがソ連の衛星国として共産主義体制下に置かれました。冷戦終結後、民主化と市場経済化を進め、多くがEUやNATOに加盟。地理的には平野や山脈、黒海やバルト海に面し、戦略的要地としての重要性を持ち続けています。
国連基準での西欧諸国には、オーストリア、オランダ、スイス、ドイツ、フランス、ベルギー、モナコ、リヒテンシュタイン、ルクセンブルクが含まれます。これらの国々は、ローマ帝国の支配、キリスト教の広がり、そして中世の封建制度などを通じて深い歴史的つながりを持っています。近代には、宗教改革や産業革命、ナポレオン戦争などが各国の文化形成に大きな影響を与えました。そして20世紀には、第一次・第二次世界大戦を経て、欧州統合の動きが強まり、現在のEUやNATOの基盤が築かれました。
未だに、かつてからの資本主義諸国を西ヨーロッパ(冷戦時代の西側諸国)、旧社会主義諸国(冷戦時代の東側諸国)を東ヨーロッパと呼ぶ場合がありますが、これは冷戦時代に宗主国(西欧ならアメリカ、東欧ならソ連)からの影響を強く受ける中で、西側と東側で文化的な剥離も生じていることが背景にあります。
冷戦時代の名残に基づく「西ヨーロッパ」(かつてからの資本主義国)には、イギリス、アイルランド、フランス、ベルギー、オランダ、ルクセンブルク、西ドイツ、ポルトガル、スペイン、イタリア、サンマリノ、バチカン市国、ギリシャ、ノルウェーなどが含まれます。これらの国々は、資本主義の原則に基づいて経済と政治が運営され、冷戦時代にはアメリカと密接な関係を持ちました。
冷戦時代の名残に基づく「東ヨーロッパ」(冷戦時代の社会主義諸国)は、ロシア、チェコスロバキア、ハンガリー、ブルガリア、ポーランド、ルーマニアなど、冷戦時代に社会主義体制を採用していた国々で構成されます。冷戦時代、ロシアはソ連として知られ、チェコおよびスロバキアはチェコスロバキアという一つの国でした。これらの国々はソ連の強い影響下にあり、政治的および経済的にも社会主義の原則に沿った経営が行われました。
冷戦時代、ロシアはソ連、チェコおよびスロバキアはチェコスロバキアという一つの国でした。
アメリカCIAが発行するワールドファクトブックは、ヨーロッパの西欧と東欧を以下のように分類しています。
水色地域:西側諸国 橙色地域:東側諸国
ワールドファクトブックは、アメリカ中央情報局(CIA)が公開する年次出版物で、世界中の国々と地域に関する概要、統計情報、地政学的データを収集したものです。この本は、国の政治、経済、人口統計、地理、通信、軍事に関するデータや、国際関係に関する情報を提供し、研究者、政策立案者、教育者、学生、または単に世界に関する詳細な情報を求める一般の人々に幅広く利用されています。
ワールドファクトブックが国連とは異なる分類をしていることについては、各組織が持つ異なる目的と基準によるものです。国連は主に政治的、経済的基準と国際的な合意に基づいて地域を分類しますが、CIAのワールドファクトブックはしばしば文化的、地理的な要素に基づき国々を区分していることがあります。たとえば、ワールドファクトブックでは、地理的な位置や歴史的な背景により、ヨーロッパの特定の国々を「西欧」または「東欧」と分けている場合があり、これは国連の地域グループ分けとは異なることがあるのです。。
これにより、ワールドファクトブックの分類は、時にはより地域的な特性や歴史的な文脈を反映することがあるため、国際的な合意に基づく国連の分類とは異なる視点を提供することになります。そのため、世界についてのさまざまな分析や意思決定を行う際には、これらの情報源の観点を理解しておくことが重要ですね。
ヨーロッパは、中世に教会が東西に分裂した影響から、カトリック文化圏=西欧(スペイン、フランス、イタリア、ドイツなど)、正教文化圏=東欧(ロシア、ギリシャ、ルーマニア、ブルガリアなど)という分類をすることもできます。
ヨーロッパの宗教的及び文化的地域分けは、歴史的な出来事や社会的発展に根ざしており、中世の大きな教会の分裂、すなわち1054年の東西教会の分裂は、この分け方に大きく寄与しています。この分裂は、ローマカトリック教会と東方正教会の間の宗教的及び文化的な違いを明確にしました。
西欧のカトリック文化圏は、1054年の教会の分裂以前からローマの影響を受けて発展してきました。カトリック教会の本部がローマにあることから、スペイン、フランス、イタリア、ドイツの南部および中部、ポーランド、アイルランドなど多くの国がこれに含まれます。これらの国々では、ローマカトリック教会が社会的、文化的な基盤を形成し、各国の芸術、音楽、建築、教育システム、祝日の慶祝方法にまで影響を与えています。カトリック文化圏では、キリスト教の教義や儀式が人々の日常生活や価値観に深く根ざしており、国のアイデンティティ形成にも大きく寄与しています。
一方、正教文化圏に属する国々は、かつてビザンティン帝国の影響下にあり、東方正教会がその文化的及び宗教的な中心となっていました。ロシア、ギリシャ、ルーマニア、ブルガリアなどがこの文化圏に含まれます。これらの国々では、正教会が重要な役割を果たし、独自の宗教的アイコン、建築スタイル、典礼音楽、および宗教的伝統を発展させてきました。正教圏の国々では、宗教的な祭日や伝統が、特に共同体の結束力となっており、民族的なアイデンティティの源泉ともなっています。
これらの宗教的文化圏は、単に信仰の違いを超えて、各国の歴史的な発展、国際関係、そして現在における社会的・政治的な動向にも影響を及ぼしています。
上述した通り、西欧と東欧の定義は固定的ではなく、歴史的背景や政治的文脈、国際関係によって変わり得るものです。しかし仮に西側諸国=かつてからの資本主義諸国、東欧諸国=旧社会主義諸国と位置付けた場合、両者には地理的、文化的、政治的な差異が存在し、傾向としては以下のような違いが挙げられます。
西欧の文化は、ルネサンスや啓蒙時代の影響を強く受けています。これにより、個人主義や自由主義的な価値観が育まれ、多様な文化的表現が生まれました。対照的に、東欧ではソビエト連邦の影響下で社会主義リアリズムが文化の主流となり、国家主導の文化政策が強化されました。これにより、文化の多様性が制限され、政治的なメッセージが強く反映された芸術が推奨されました。
西欧ではロマンス語派やゲルマン語派が主流で、英語、フランス語、スペイン語などが広く使われています。東欧ではスラブ語派が支配的で、ロシア語、ポーランド語、チェコ語などが主要な言語として位置付けられています。これらの言語の違いは、各地域の歴史的な結びつきや文化的交流のパターンを反映しています。
宗教においても、西欧はカトリックやプロテスタントが主流であるのに対して、東欧では正教会が大きな影響力を持っています。特に東欧では、正教会が国家と密接な関係を保ち、文化や政治において重要な役割を果たしています。
冷戦期における政治体制の違いは、西欧が資本主義と民主主義を採用していたのに対し、東欧は社会主義と一党独裁制を採用していたことからも明らかです。この体制の違いは、今日の政治風景にも影響を与えており、東欧では過去の体制からの移行が依然として進行中です。
経済的には、西欧がより発展した市場経済を持つのに対し、東欧は計画経済から市場経済への転換期にあり、多くの場合、経済発展が西欧に比べて遅れています。これにより、生活水準や経済の構造に明確な差が見られます。
気候においては、西欧が海洋性気候の影響を受けているのに対し、東欧は大陸性気候の特徴を持っています。これにより、東欧は夏は暑く冬は寒いという極端な気温の変動を経験することが一般的です。
ヨーロッパの「西欧」と「東欧」の境界は、国や機関によって解釈が異なりますが、一般的な認識では、歴史的、文化的、政治的要因によって定義されます。西欧は、ローマ帝国の西部領域やカトリック教会の影響が強く、早期に産業革命や民主主義が進んだ地域です。東欧は、ローマ帝国の東部領域や東方正教会の影響を受け、20世紀にはソビエト連邦の影響下にあった国々が多く含まれます。しかし同時に、冷戦後、EUやNATO加盟により、これらの境界は曖昧になりつつあることも知っておきましょう。
|
|
|
|