
ディアドコイ戦争のヘレスポントの戦い (前321年)でネオプトレモスを破るエウメネス。
ディアドコイ戦争(前323〜前280頃)は、マケドニア王アレクサンドロス3世亡き後、その配下の将軍たちが、王の後継者(ギリシア語でディアドコイ)の座、つまりアレクサンドロス3世の治世で築かれた広大な帝国領の覇権を巡り繰り広げた戦争です。アレクサンドロス3世の没年前323年から、コルペディオンの戦いで決着がつく前281年までと、約40年と長期にわたって続けられました。
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マケドニア王国は前4世紀中にギリシア全土の覇権を確立し、アレクサンドロス3世の治世では地中海世界のみならず、はるか東方のインドにまで勢力図を広げる巨大な帝国を創り上げていました。しかし前323年、王は広大な帝国領を引き継ぐ後継者を明示せず、ただ「最強の者が後継者になれ」とだけ言い遺し逝去してしまいます。この言葉が発端になり、マケドニア領土各地に拠点を持つ配下の将軍が立ち上がり、後継者の座を巡り戦争を開始したのです。
ディアドコイ戦争における主要な戦い
ディアドコイ戦争は、第1次から5次にかけて行われました。各戦争の顛末は以下の通りとなります。
アレクサンドロス大王の後継を巡る最初の大規模な戦争です。この戦争ではペルディッカスとアンティパトロスが中心となり、帝国の統一を巡って争いました。この戦争の結果、ペルディッカスが暗殺され、アンティパトロスが勝利を収める形で一時的な平和がもたらされましたが、帝国の分割がさらに進んだのです。
アンティパトロスの死後、彼の後継者問題が火種となり、ポリュペルコンとカッサンドロスが中心となって戦いました。この戦争では、多くの将軍たちが自己の権力基盤を強化しようとし、アンティゴノスがギリシャ本土での支配権を確立するきっかけとなりました。
アンティゴノス一世が覇権を握るべくセレウコス、プトレマイオス、リュシマコス、カッサンドロスと対立しました。この戦争は、アンティゴノスの勢力拡大を抑えるための連合の形成を見ることができ、後のディアドコイ戦争への布石となりました。
アンティゴノス一世とその息子デメトリオスの野望を阻止するため、プトレマイオス、リュシマコス、セレウコス、カッサンドロスが再び連合しました。この戦争のクライマックスは、前301年のイプソスの戦いで、アンティゴノスが戦死し、その結果、帝国は更に細分化されました。
最後のディアドコイ戦争ともされ、セレウコスとリュシマコスが主導権を争いました。この戦争は、前281年のクロノスの戦いでセレウコスがリュシマコスを倒し、一時的に多くの地域を統一するも、直後に暗殺されることで再び混乱が生じました。この戦争をもって、アレクサンドロス大王の帝国の遺産を巡る内戦はひとまずの終結を迎えました。
ディアドコイ戦争最終局面では、最有力のディアドコイ・アンティゴノスに対し、リュシマコス、セレウコス、プトレマイオスらが連合を組み対抗する構図になりました。そして最終的にイプソスの戦いでアンティゴノスが敗れたことで、残された再統一することなく分裂状態が維持されることになったのです。
そしてアレクサンドロス大王が亡くなった後、彼が築いた広大な帝国は、彼の死を受けて権力を争った一連の後継者たち、「ディアドコイ(後継者)」の手によって、激しい戦いを経て、最終的に3つの主要な王国に分裂しました。
アレクサンドロス大王の側近護衛艦として名を馳せたプトレマイオスが統治を引き継ぎ、エジプトを中心に北アフリカの一部を支配しました。プトレマイオス朝は、アレクサンドリアを首都として繁栄し、文化や科学の中心地としても名高くなりました。この王国は、古代地中海世界の重要な文化的および政治的力として、約300年間存続しました。
セレウコスは、アレクサンドロス大王の元将軍の一人として、シリアをはじめ、バビロニア、アナトリア、イラン高原、バクトリアといった広範囲にまたがる地域を統治しました。彼は前300年にアンティオキアに首都を設置し、この新たな首都は商業、文化、政治の中心として栄え、セレウコス朝の権力の象徴となりました。この王国は、異なる文化が交錯する場として、多様な人々が共存するダイナミックな環境を提供しました。
アンティゴノスは「ディアドコイ」の中でも特に強力とされ、彼の支配下ではギリシャ・マケドニアを中心にして、多くのギリシャ都市国家が統合されました。この王国は、ギリシャ本土の政治的および軍事的な優位を維持しながら、一時的にはバルカン半島全域にその影響力を拡大しました。アンティゴノス朝は、その戦略的位置からバルカン地域における重要な政治的な役割を果たし、後のヘレニズム時代の政治的な枠組みに影響を与え続けました。
このようにアレクサンドロス大王の帝国は、彼の死後、彼の元部下たちによって新たな歴史の舞台が築かれたのです。
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