ミケーネ文明

ミケーネ文明

紀元前30世紀頃から前12世紀頃にかけて、エーゲ海周辺で栄えていた青銅器文明の総称をエーゲ文明といいます。このうちペロポネソス半島のミケーネを中心に栄えたのがミケーネ文明です。前16世紀頃、ギリシア本土のヘラディック文明と、クレタ島のクレタ文明の影響を強く受けたことで成立しました。クレタ文明が滅んだ15世紀以後に全盛を迎え、エーゲ地域全体を支配する統一的文明となりました。

 

 

ミケーネ文明の特徴

ミケーネ文明で使われていた線文字B

 

文化的特徴

ミケーネ文明の遺跡としては、ミケーネのアトレウスの墓、獅子門などの城塞跡など。王宮跡からは、多彩な壁画・陶器、線文字Bの刻まれた粘土板などが出土し、文化的に高度に発達した文明であったことがうかがえます。

 

軍事的特徴

宮殿が堅牢な城壁に囲まれていること、陶器類の絵柄が主に兵士や武具であることから、ミケーネ文明が栄えた時代は戦争が多かったのではと考えられています。ミケーネに多大な影響を与えたクレタ文明の宮殿は、城壁もなく外部からの進入が容易な開放的な造りでした。このことからクレタ文明が栄えた時代は、争いのない平和な時代であったと考えられています。

 

ミケーネ文明の歴史

起源

ミケーネ文明は、紀元前1600年頃にギリシア本土のペロポネソス半島で成立しました。起源は、古代ギリシアのヘラディック文明にさかのぼることができ、その発展は周辺地域の文化や技術の影響を受けつつ、独自の特徴を形成していきました。ミケーネの都市は、その優れた要塞化された宮殿と墳墓から知られ、早い段階で強力な中央集権的な支配体制が確立されたことが考古学的に示されています。

 

繁栄

ミケーネ文明の繁栄期は紀元前1400年から紀元前1200年にかけてで、この時期にはギリシア本土はもちろん、エーゲ海、クレタ島、アナトリア半島に至る広範囲に影響を及ぼしました。ミケーネ人は優れた海洋技術を持ち、広範囲にわたる交易ネットワークを構築し、金、銀、青銅などの貴重な資源を利用した工芸品で知られるようになりました。また、線文字Bを用いた行政文書が残されており、当時の社会組織や経済活動についての貴重な情報源となっています。

 

トロイアを滅ぼす?

ギリシア神話で語り継がれる内容の一つに、トロイア戦争と呼ばれる有名な戦争があります。アカイア人によるトロイア(現トルコ北西部)への遠征がきっかけで起こったとされています。ギリシア神話は歴史書ではなくあくまで神話なので史実ではありません。

 

アカイア人の小アジア遠征に端を発するトロイア戦争において、都市トロイア(イリオス)が陥落する様子を描いた『トロイアの炎上』( Johann Georg Trautmann作、1759〜62)

 

しかし19世紀末、ハインリヒ・シュリーマンがトルコ北西部の遺跡を調査した結果、古代都市が火災に見舞われた考古学的証拠が見つかりました。このことからトロイア戦争は、実際にトロイアで起きた戦争をもとに創造された神話である可能性があるのです。トロイア文明は前12世紀中頃に滅びますが、これがミケーネの侵略によるものであるという推察も成り立つのです。

 

滅亡

海の民と戦う古代エジプトの軍。海の民はミケーネ文明を滅ぼしたと考えられている。

 

エーゲ地域全体を支配するほど栄華を極めたミケーネ文明ですが、前12世紀に突如として起こった謎の社会変動で滅亡してしまいます。この前1200年のカタストロフとよばれる社会変動の原因としては、気候変動による飢饉、疫病の蔓延、戦争、海の民による侵略などなど諸説唱えられていますが、はっきりしたことはわかっていません。おそらく複合的な要因で滅んだのでしょう。

 

ミケーネ文明の影響

政治的影響

ミケーネ文明は、中央集権的な政治構造を築き上げ、王権が極めて強力であったことが知られています。ミケーネの王たちは、広範囲にわたる領土を支配し、統一された行政システムを整備しました。この政治システムは、後のギリシアのポリス(都市国家)形成において、中央集権から分散型の政治構造への移行を促したと考えられています。また、ミケーネ文明の政治的継承は、古代ギリシアの神話や伝承にも大きく影響を与え、王権の正統性と神性を強調する文化の基盤を形成しました。

 

文化的影響

ミケーネ文明の芸術と建築は、その後の古代ギリシア文化に顕著な影響を与えました。ミケーネの獅子門や巨大な墳墓などの建築様式は、後の古代ギリシアの寺院建築や公共建築に技術的な示唆を与えたとされています。また、ミケーネの壁画や陶器のスタイルは、ギリシア陶器の発展に技術的な基盤を提供し、神話的なテーマや装飾様式のインスピレーション源となりました。

 

ミケーネの文化的遺産は、古典期ギリシアの美術や文学に多大な影響を及ぼし、ホメロスの叙事詩などにもその名残を見ることができます。

 

経済的影響

ミケーネ文明は、エーゲ海域および地中海全域に広がる交易ネットワークを確立しました。この経済的拡大は、後の古代ギリシアの貿易と経済発展に基盤を成したとされています。ミケーネ人は金属加工、特に青銅の技術に秀でており、この技術は周辺地域へと広がり、新たな商業的機会を創出。さらに、彼らの交易活動はエーゲ海域の文化交流を促進し、技術やアイディアの伝播に寄与しました。つまりミケーネ文明の経済的遺産は、地中海地域の商業ネットワークの初期形成において重要な役割を果たしたのです。

 

以上、ミケーネ文明についての解説でした!

 

ざっくりと振り返れば

 

  • ミケーネ文明はペロポネソス半島で栄え、中央集権的な政治構造と堅固な軍事力が特徴
  • 繁栄期にはエーゲ海全域を支配し、貴重な工芸品と広範囲な交易ネットワークが成立
  • 滅亡は複合的な要因(戦争、気候変動、海の民の侵略など)によるものとされ、政治・文化・経済に大きな影響を与えた

 

・・・という具合にまとめられるでしょう。

 

ようは「ミケーネ文明は、強力な中央集権と広範囲な交易ネットワークを構築し、その後のギリシア文化に大きな影響を与えた。」という点を抑えておきましょう!以下でミケーネ文明に関するQ&Aをまとめていますので、さらに詳しく知りたいという方は参考にしてみてください。