産業革命

産業革命

この新しい生活様式の発展は、劇的な社会の変容と関連していた。生産関係は、親方と職人との関係にかわって、資本家と賃金労働者との関係を基盤とするようになった。工場を所有する資本家としての産業ブルジョワジーの勃興は、政治・経済・社会のあらゆる側面における変化を引きおこしていったのである。

 

長谷川貴彦 著『産業革命』p8より引用

 

産業革命とは、18世紀後半から20世紀初頭にかけて主にヨーロッパを舞台として起こった急速な技術刷新、それにともなう経済・社会構造の大変革のことです。この変革を契機に、かろうじて残っていたヨーロッパの封建制社会も完全に終焉を迎え、近代資本主義社会へと移行していきました。

 

 

産業革命の背景

世界でもヨーロッパ、とりわけ西ヨーロッパが産業革命の中心となっていくのは、この地域にはもともとルネサンス科学革命による科学的な発見・発明の積み重ねがあり、他の地域よりも技術的な先進性と優位があったという背景があります。この地域の科学的な進展は、実験的方法や合理的思考を重んじる文化が確立されていたことに起因します。特に、ニュートンの物理学やガリレオの天文学などの科学的業績は、技術革新の基礎となりました。

 

経済構造の変化

この時期の西ヨーロッパでは、経済的な構造も大きく変化していました。農業革命が進行する中で食料生産の効率が向上し、都市への人口移動が加速しました。これにより、都市部での労働力が増加し、新たな工業の発展に必要な労働市場が形成されたのです。また、植民地からの豊富な原材料供給も、産業革命を支える一因となりました。

 

政治的安定

これらの技術的、経済的背景に加え、政治的な安定も欧州の発展を後押ししました。特にイギリスでは、名誉革命を経て確立された政治体制が、商業と産業の発展を積極的に支援する環境を提供しました。法の支配と財産権の保護が保証されることで、投資とイノベーションが促進され、これが直接的に産業革命を加速させる要因となったのです。

 

産業革命の開始

産業革命の原動力となった力織機

 

産業革命の始まりは、他のヨーロッパの国々と比べ政治的成熟が早かったイギリスでした。政治の安定とそれがもたらす経済的繁栄が、人々の精神面にゆとりを生み、画期的な発明の連続に繋がるのです。

 

イギリス産業革命期の発明一覧

 
  • J.ケイの飛杼 (とびひ) (1733年)
  • J.ハーグリーブズのジェニー紡績機 (1764〜67年頃)
  • R.アークライトの水力紡績機 (1769年)
  • S.クロンプトンのミュール紡績機 (1779年)
  • E.カートライトの力織機 (1787年)
  • J.ワットの蒸気機関 (1769年)
  • A.ダービーのコークスによる製鉄法(1783年)
  • H.コート,P.オニオンのパドル式練鉄法 (1784年)
  • J.ウィルキンソンの中ぐり盤 (1774年)

 

そんなこともあり、イギリスでは18世紀後半から、今まで人力や動物、自然の力に頼っていたあらゆるものが「機械化」されるようになり、農業中心の経済状態から工業中心の経済状態への離陸現象が始まっています。

 

交通革命

トレビシック、スティーブンソンら(双方イギリス人)による蒸気機関車の発明・開発を背景に、鉄道網の発達も進み、人・物の流通が飛躍的に加速する「交通革命」とも呼べる現象も起こりました。これにより生産量が爆発的に増大したことは、近代資本主義社会への転換に大きく寄与しています。

 

蒸気機関を搭載した蒸気機関車は、工場生産の原材料・製品の輸送効率を大幅に上げ、産業革命の中核をなした。

 

 

産業革命の影響

19世紀以降はフランスドイツはじめ大陸ヨーロッパ諸国にも産業革命の波が到来し、ヨーロッパ全体で生産規模は質量ともに爆発的に増大しました。すると各国は「原料の調達先」として、アフリカアジアに価値を見出し、その植民地化に躍起になります。

 

列強による帝国主義を象徴する風刺画

 

いわゆる「帝国主義」と呼ばれる植民地獲得競争の激化が始まり、それがもたらす列強間の対立や国際的緊張が、20世紀初頭の世界規模の大戦に繋がっていくのです。第一次世界大戦(1914〜18年)は、産業革命を背景とした兵器の近代化で殺傷率が大幅に上がり、1000万人を超える史上類を見ない犠牲を生み出した戦争になりました。

 

ヨーロッパの産業革命がひと段落した19世紀後半からは、日本でも「富国強兵」政策のもと、西洋に追いつけ追い越せとばかりに、工業社会への転換が加速していきました。

 

この産業革命による生産技術の進歩と拡大は、工業製品の大量生産を可能にし、社会のあらゆる層に影響を及ぼしました。経済の効率化とスケールの拡大は、都市化を加速し、農村から都市への人口移動を促進しました。これにより、新たな社会階層が形成され、労働者階級の生活条件の改善と労働運動の興起が進みました。また、交通と通信の革命もこの時期に進展し、鉄道の拡張電信の普及が国内外の情報流通と人の移動を劇的に変化させました。

 

さらに、産業革命が推進する技術革新は、新たなエネルギー源の開発と利用を促進しました。特に石炭と蒸気力の活用は、工業プロセスを根本から変え、後の電化と自動化の道を築いたのです。これらの技術革新は、19世紀の後半から20世紀にかけての経済発展の基盤を形成し、世界的な経済のグローバリゼーションを促進する一因となりました。

 

産業革命の歴史年表

イベント
1733年 J.ケイの飛杼の発明(第一次産業革命の開始)
1760年頃 第二次囲い込み(エンクロージャー)
1764年 J.ハーグリーブズのジェニー紡績機の発明
1769年 R.アークライトの水力紡績機の発明
1769年 J.ワットの蒸気機関の発明
1774年 J.ウィルキンソンの中ぐり盤の発明
1779年 S.クロンプトンのミュール紡績機の発明
1783年 A.ダービーのコークスによる製鉄法の発明
1784年 H.コート,P.オニオンのパドル式練鉄法の発明
1787年 E.カートライトの力織機の発明
1789年 フランス革命勃発
1807年 フルトンが蒸気船を発明
1811年 ラダイト(機械破壊)運動
1815年 「穀物法」発布
1825年 蒸気機関車による鉄道運行開始
1846年 「穀物法」廃止
1849年 「航海法」廃止される
1870年代〜 第二次産業革命の開始