ヨーロッパの宗教の種類や割合|キリスト教が多い理由は?

ヨーロッパにおける宗教事情は、その歴史的背景と文化的伝統に深く根ざしています。まずもって、歴史的な背景からキリスト教がヨーロッパで最も広く信仰されている宗教であり、ローマ帝国の国教としてのキリスト教採用は、ヨーロッパ全域にその教えを広める重要な転機となりました。

 

またその後も、中世を通じてキリスト教は教育、文化、政治の面でヨーロッパ社会に深く浸透し、多くの国家では国教として位置づけられたのです。一方、近年では、移民の流入に伴いイスラム教、ユダヤ教、仏教、ヒンドゥー教など他宗教の信者も増加しており、宗教的多様性が進んでいます。

 

以下ではそんなヨーロッパで信仰されている宗教について簡単にまとめています。

 

 

キリスト教

キリスト教は古代ギリシア古代ローマ文化、ゲルマン文化に並び、ヨーロッパ文化を象徴する三大要素の一つで、ヨーロッパ史を理解するためには欠かせない要素といえます。古代ローマ帝国時代に国教に指定されて以来、着実に信者数を増やしていき、現在ヨーロッパで圧倒的な信者数を誇っています。

 

信仰の起源

キリスト教は、ローマ帝国時代の中東ユダヤの地で、紀元前7年〜4年頃誕生しました。しかしもともとローマ帝国というのは多神教の国だったので、一神教のキリスト教への風当たりは強く、誕生からしばらくは弾圧の対象でした。

 

そんな中、ローマ帝国統一を果たしたコンスタンティヌス1世(270年頃-337年)が、史上初めてキリスト教を信仰する皇帝となったことで潮目が変わります。その後、392年テオドシウス帝がキリスト教を正式に国教と定めたことで、弾圧の時代は終わり、信仰者が爆発的に増えていったのです。

 

信仰の宗派

キリスト教はカトリック/プロテスタント/正教会の3宗派に分かれています。カトリックはイタリアなど南部のラテン系国家で、プロテスタントはイギリスやスカンディナヴィア諸国など北部のゲルマン系国家で、正教会はロシアベラルーシなど東部のスラブ系国家に根付いています。ヨーロッパにおける信者数の割合はカトリック38%、プロテスタント10%、正教会22%となっています。

 

カトリック

キリスト教の中で最大の教派で、ローマの教皇を最高指導者と位置付けています。伝統的な典礼、教義、組織体制を持ち、7つの秘蹟(洗礼、堅信、聖体、婚姻、告解、聖職授与、病人の塗油)が特徴的です。あとは聖母マリアへの崇敬も強いのが特徴ですね。

 

カトリック信者の割合:ヨーロッパにおけるキリスト教徒の約48%(Pew Research Center, 2010年)

 

カトリック教会は、キリスト教の中でも特に厳格な教義と規律を持っており、全世界に広がる多くの信徒を有しています。教会の教義は聖書と伝統に基づいており、その中心はイエス・キリストの教えにあります。また、カトリック教会は社会的な教育や慈善活動にも積極的で、世界中の教育機関や病院、福祉施設を運営するなど、平和、正義、貧困問題への取り組みを重視するのも特徴ですね。

 

プロテスタント

宗教革命時ルターが唱えたもので、元来の形を改革しカトリック教会から分離した教派です。主要な教義に「信仰のみによる救済」、「聖書のみが信仰と生活の規範」、「神のみによる栄光」があります。プロテスタントもプロテスタントで、さまざまな教派があり、主にルター派、カルヴァン派、アナバプテスト派、メソジスト派などが挙げられます。

 

プロテスタント信者の割合:ヨーロッパにおけるキリスト教徒の約19%(Pew Research Center, 2010年)

 

これらの教派は、カトリック教会の教義や権威に対して異議を唱え、個々の信者の良心と聖書の権威を強調するのが特徴です。また、各教派には独自の典礼や教義があり、信仰生活における多様なアプローチを提供。プロテスタントの中でも、特にルター派やカルヴァン派は、宗教改革の主要な動力となった教派であり、今日でも世界中に広く信者を持っていますね。

 

正教会

ローマとビザンチン帝国を中心に広まり1054年カトリック、プロテスタントなど西方教会と分離した教派です。カトリックとの大きな違いは、教皇の首位性を認めず、各地の主教(大主教または府主教)が自治的に運営しているところです。典礼や祈りにおいては、美と神秘性が強調され、カトリック同様7つの秘蹟を認めますが、カトリック教会と比べて理論的な教義よりも、祈りと奉仕の実践に重きを置く傾向があります。

 

正教会信者の割合:ヨーロッパにおけるキリスト教徒の約35%(Pew Research Center, 2010年)

 

正教会の信仰実践は、伝統的な典礼や美術、音楽に深く根ざしており、これらは祈りと礼拝の中心的な要素となっています。また、正教会は、イコンをはじめとする「聖像の使用」においても独特の位置を占め、祈りと崇拝の助けとして重要な役割を果たします。

 

正教会の神学は、東方の哲学や神秘主義に深く影響を受けており、西方教会とは異なる独自の視点を持っています。特に、人間と神性の関係、救済の理解において、東西の教会は異なるアプローチをとっており、正教会では、神との合一や神秘的な体験を重視し、個人の内面的な霊性の深化に大きな重きを置いているのです。

 

 

イスラム教

ヨーロッパにおいてキリスト教に次いで信者数が多いのはイスラム教です。トルコボスニア・ヘルツェゴビナアルバニアなど東南ヨーロッパ中心で優勢な宗教ですが、西ヨーロッパでもイスラム圏からの移民により信者数が増加傾向にあります。フランス、ドイツ、イギリスなどの国々では、イスラム教徒コミュニティが成長し、それぞれの国の文化や社会に影響を与えているのです。

 

イスラム教徒の割合:ヨーロッパ人口のおよそ6%(Pew Research Center, 2017年より)

 

歴史的に見ると、イスラム教は中世においてヨーロッパの一部地域で主要な宗教であり、特にイベリア半島では、イスラム教国家の統治下で栄え、宗教、科学、芸術など多くの分野で著しい発展を遂げました。

 

現代のヨーロッパでは、イスラム教の存在は宗教的多様性を象徴し、異文化間の対話や相互理解の重要性を示すものでもあります。キリスト教とイスラム教の共存は、ヨーロッパの多文化社会において重要な課題となっており、両宗教間の交流と理解が今後さらに進むことが期待されていますね。

 

ユダヤ教

少数派宗教ながらヨーロッパ各国で確固たる存在感を示しているのがユダヤ教です。ヨーロッパには古来よりユダヤ人のコミュニティが存在していて、欧州各国に数万人から数十万人のユダヤ教徒が存在します。ユダヤ教は中東発祥で、起源は紀元前1200年頃までさかのぼります。ヨーロッパにはキリスト教が生まれる前から信者が存在しましたが、中世以降キリスト社会に移行してから、反ユダヤの風潮が高まり、“異教徒”としてユダヤ人の活動は厳しく制限されるようになりました。

 

しかし、ユダヤ教徒たちは、これらの困難な状況の中でも、ヨーロッパ各地で独自のコミュニティを形成し、宗教的な伝統や文化を維持してきました。ユダヤ教の祈りや祭り、食文化などは、彼らの生活の中で重要な役割を果たしており、その文化はヨーロッパの多様性を豊かにしているのです。

 

仏教

仏教といえばアジア限定の宗教というイメージがあるかと思いますが、近年ヨーロッパでも、若者を中心に仏教への関心が高まり、仏教徒の数が急速に増えています。前3世紀、マケドニア王アレクサンドロスは、東方遠征でインドにまで到達し、これがヨーロッパ人が初めて仏教に触れる機会となりました。ヨーロッパに本格的に普及したのは、大航海時代(15〜17世紀)になり、西洋列強がこぞってアジアに進出し始めてからです。ロシアのカルムイク共和国ではチベット系仏教が主流で、ヨーロッパ唯一の仏教国として知られます

 

仏教徒の割合:ヨーロッパ全体の1%未満(Pew Research Center, 2010年)

 

ヨーロッパにおける仏教の普及は、宗教的多様性と相互理解の促進に寄与しており、東西文化の交流と融合の重要な一環となっています。仏教の教えが提供する平和と調和のメッセージは、多くのヨーロッパ人にとって新たな精神的な指針となり、その人気は今後も高まっていくことが予想されます。

 

 

無宗教

近年は無宗教や無神論の人も西ヨーロッパを中心に増えていて、ドイツスウェーデンフランスチェコなどでは無宗教者の割合が高いです。チェコ人は7割が無宗教とされています。

 

この傾向は、世俗化の進展、個人の自由と多様性への重視、そして伝統的な宗教機関に対する信頼の低下が原因とされています。特に若い世代の間では、宗教よりも科学や理性を重んじる傾向が強く、宗教的な教義や儀式に対する関心が低下しています。

 

さらに、ヨーロッパの政治と宗教の分離は、無宗教化を促進する要因となっています。多くの国で宗教と国家の明確な分離が定められ、宗教的影響力が政治的決定から排除されています。これは、宗教の自由とともに、信仰を持たない人々の権利も尊重する文化を生み出しています。

 

このように、ヨーロッパでは宗教的多様性が進む一方で、無宗教者の割合も増加していることが現代の宗教事情の特徴となっています。そしてこれらの変化は、社会の進歩、個人の価値観の変化、そして新しい世代の思想によって影響を受けたものといえるでしょう。

 

上記は大まかな傾向を示すものであり、各地域や国によって信仰されている宗教は異なります。また、その他にもヒンドゥー教、仏教、シク教、バハイ教などの信仰者もいます。